おはよう世界という為に。
憂鬱だ。なんて憂鬱な朝に僕は居るんだ。
ただでさえ月曜日の朝なんてものは最悪な物をごった煮にした基本が憂鬱の世界だ。できれば消えてなくなりたい僕が、ちゃんと起きて、ちゃんと飯を食い、ちゃんとスーツに着替え、会社に向かうだけで100点満点の偉いと思っている。それなのに、今日は特に憂鬱だ。
「またぁ?」
どんよりと雨の降りそうな薄暗い中、最寄駅の改札前にごった返す人たちを見つけてため息をついた。駅員のアナウンスによると、1時間ほど前に通過する快速電車に飛び出した人間が居たらしい。故意か、事故かは分からない。でも会社へ遅刻してしまうので、普段の僕にとっては迷惑極まりない行為に変わりはない。そう、こんな憂鬱な月曜日なら迷惑とも思わないのだ。
死んだ人はゴールしたんかな?
人身事故で電車が遅れるなど、都心であれ何であれ珍しい話ではない。けれど、今の僕には胸がすっーとする。この気持ちは、ほっとするとも言うのかもしれない。自ら人生に幕を引くことを、子供の頃から「イケナイコト」として教えられてきた1人として、この感想は間違っているのかもしれない。それでも、終わろうとして無事に終れたその人にとって、上がるのは怒号でも血飛沫でもなく、カラフルな紙ふぶきであって欲しい。
白線を超え、繰り返す地獄じみたこの世界から無事に脱出できたのだから。
死ななければ清算は不可能な自分の為に選んだ道に、非道徳な僕は平気な顔をして労いと忘れる努力をしたい。
俺はムリだなぁ。
僕に出来るほどの勇気も、気力もないけれど、心の中でそっと手を合わせるくらいはしておこう。いつかではない、今日と言う憂鬱な世界から抜けた知らない誰かの為に。
しったこっちゃない。
しったこっちゃないのだ。
でも、思うくらいは自由で居させてほしい。
起きるのも億劫で、毎日、自ら地獄の中へ通い詰めるような自傷行為を繰り返す僕に。駅のホームに立つたびに、高いビルを見上げる度に、この車道に飛び出せば終るんだと順番待ちをしている僕に、「じゃあどうしてそうしないの?」と問われれば、頭をからっぽにしていつもの様に話すだろう。
また明日、変らぬ朝を迎える為だよ、と。