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【読書メモ】アメリカン・ブッダ (ハヤカワ文庫JA)柴田 勝家 (著)

気鋭の民俗学 x SF作家の短編集。一昨年、同作者の「ヒト夜の永い夢」が個人的にヒット作だったので期待していた作品。

「ヒト夜〜」の前日譚にあたる「一八九七年:龍動幕の内」はやはりヒットした。ロンドンを舞台とした南方と孫文の探偵活劇。偉人が登場するタイプの伝奇 SF モノは、歴史の知識で背景知識を補えるからか、特にキャラ解説のお膳立てがなくとも登場時に高揚感があるが、氏の作品では歴史の制約の上でなお人物が躍動感を持って描かれていて、実在の人物への好感度も高まってしまうからすごい。

他には、"ウワヌリ" と呼ばれる実家の謎の白壁の中から白骨とその他のものが続々掘り出されるという「邪義の壁」は田舎の因習の不気味さ、登場する一族の因業の深さがぞっとしない感じでかなり好きだった。氏は民俗学の土台とハイテク技術が融合した作品(と、上記の伝奇SF)の印象が強いだけに、こういう作品も書けるのかと新たな一面を発見した気分。

また、北上山地に建設中のILC を舞台に、記憶を構成する素粒子 "ボンビシオン" が鍵を握る「鏡石異譚」が好みだった。自分が学生時代に素核実験が専門だったせいか、SF 的仕掛けに使われると嬉しくなってしまう(最近だと「三体」もそうだった)。

その一方で、表題作は時間的・空間的スケールが大きすぎてあまり作中世界に入り込めなかったのが残念。集中力が途切れていたのもあるので、再読してみたい。

勝家氏のマスコット的魅力についても語られる解説もよかった。

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