鑑賞ログ「ただ悪より救いたまえ」

220109@シネマート新宿


ファン・ジョンミンの作品は観ないといけない。イ・ジョンジェも『イカゲーム』で話題だし。ということで鑑賞。そういえばこの二人は『新しき世界』コンビだった。

殺し屋として日本のやくざ・コレエダを暗殺したインナム(ファン・ジョンミン)。これを最後に彼は殺し屋稼業から足を洗い、誰も知らない異国へと旅立つ予定だった。すでに偽装パスポートも用意され、あとは行き先を決めるだけ。そんな彼のところに、韓国から「タイで娘を誘拐された女がお前を探している」と連絡が入る。工作員として韓国政府のために尽くしてきた彼に身の危険が及んだ数年前に、我が身を守るために別れた恋人が、自分を探していたのだった。
一方で、コレエダの弟・レイは兄を殺した人間に復讐をするため、インナムを探していた。屠殺を生業にした在日朝鮮人を父に持つレイは、殺す相手はナイフで切り裂くサイコパスだった。
タイバンコクに誘拐事件の解決のために向かう殺し屋のインナム、復讐のために彼を追うサイコパス・レイ。圧倒的な殺人能力を持つ二人はいかに決着をつけるのか、という話。

日本とタイと韓国、3つの場所を拠点に物語が紡がれていくノワール作品。正直、物語のフォーマットはありふれているモノだと思う。そのまま日本人がやっても成立するし、場所を変えたら洋画でもあるような気がする。でも期待は裏切らない。それは画の力と役者の力が大きいんじゃないかと思う。すべてをきちんとやってて、説得力がある。
映像で印象に残るのは土煙の乾きと汗が臭い立つようなタイと、暗く冷たさを感じる韓国・東京の映像の差。東京の方が明るく、韓国は暗い。こういうの好き。あと、映像のテンポの良さも飽きさせない要因だと思う。説明カットをあえて抜く感じ。電話が鳴る、誰か入ってきた、誰だお前、俺はなー○○だ!と自己紹介、殺される、という流れのうち、頭と最後しかない。それがカッコいい…。
レイのブチギレっぷりと映像の相乗効果もいい。予告にもある格子から牛刀をガシガシやっている部分とか、マシンガンで人をぶん殴ってジュースを飲むとか。カッコいい…(2度目)。
そして、ファン・ジョンミンとイ・ジョンジェの対決も良い。ファン・ジョンミンはエモーショナルで、怒り、悲しみ、泣く。泣かしてくる。一方途中からは、インナムを追う理由が復讐ではなく、逃げる者を殺すためになってしまい、もはやなぜ追うのかも忘れてしまったレイ。正直最初は戦闘能力バカ高のイ・ジョンジェの悪役にイマイチ乗れなかったけど、観ていくうちにもうヘビにしか見えなくなってくる。執拗なヘビ。二人の対決を観れるだけでも良い。
あと、ファン・ジョンミンの瞳に光が当たるシーンの美しさも良かったな。

物語は、タイ政府はこれでいいのか、というぐらい暗部を描く。暗部は「闇の子供たち」にも通ずるところ。ゆえに現地のヤクザと警察も介入して、四つ巴に。ただ、それも吹っ飛ぶインナムとレイの喧嘩っぷり。いや、レイのブチギレぶりと言った方がいいかも。だって、もはやこれって喧嘩じゃなくて市街戦じゃねーかというレベルなんだもの。

ふと、アクション映画って雑魚キャラは超簡単に死んでいくけれど、主要キャラクターってなかなか死なない。しぶといよね、ということを唐突に思い出した。それぐらいしぶとく最後まで二人ともいる。ま、二人とも通ってきた修羅場が半端じゃさそうだし、ここで死ぬわけにはいかないという精神力で生き残っているんだろうな。あそこに自分がいたら、絶対流れ弾できっちり死んでる。

敢えて指摘するなら、ちょっとレイの日本語はがんばって欲しかった。在日とは思えない発音の悪さだった。あと、掛けているサングラスのダサさも…(予告編の10秒ぐらいのところでかけてる)。鉄の溶接でもするんか?と突っ込みたくなる形。ネットでざっと調べても画像が出てこないから、作品の関係者もアレはやばい、と思ってるのかもw。

日本のやくざ役でコレエダには豊原功輔が冒頭に出演。レイの手下として白竜が出てきたところでちょっと笑ってしまった。外さないね、白竜。あと、タイに来たインナムのガイドをするニューハーフのユイ役のパク・ジョンミンも良かった。この作品では愛すべきコメディリリーフ。どこかで観たなーと思っていたら、ネトフリドラマの『地獄が呼んでいる』だった。

一瞬風呂敷がガーンと拡がって、ちょっと不安になるけれど、キチンとハラオチする。中弛みもしないし、圧倒的な映像力もあるし、映画館で観れて良かった。これは自宅で観てたらここまで面白く感じなかっただろうな。

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