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『11、推敲の極意。百年経っても読まれる小説の書き方』

小説を書き終わったけど、どうもしっくりすっきりしない箇所がある。思い切って変えてみよう。

私の最新作『十字架とカモノハシ』がどう推敲されたか、その全てお見せします。


場面1、書き直す前の文章。

 急ブレーキで電車が止まる。いきなりだったから、乗客の身体は、がくんと前にのめり、悲鳴まで聞こえた。聖華せいかは座っていたから影響はさほどなかった。車内アナウンスが流れる。「只今、停車位置の修正をしております……」。

『十字架とカモノハシ』

場面1、推敲した結果。

 急ブレーキで電車が止まる。いきなりだったから、車内いっぱいの乗客達の身体は、がくんと前にのめり、悲鳴まで聞こえた。聖華せいかは座っていたから影響はさほどなかった。もし、何らかの事故があったら、ここにいる人達とは運命共同体なんだな。どんな人がいるんだろう、と聖華は辺りを見回す。車内アナウンスが流れる。「只今、停車位置の修正をしております……」。

『十字架とカモノハシ』

ポイント:車内に人がたくさんいる、という情景を付け足す。「辺りを見回す」=主人公の視線が180度回る。小説世界の空間を広げる。


場面2、書き直す前の文章。

 両手で握った携帯。イヤホンで聴く。
「頭の中を覗かれている、という理由で人気小説家に刃物で怪我をさせた、小説家志望の容疑者の裁判がこれから始まります」
裁判所にぞろぞろ入って行く人々。携帯で見ると、その人達はとても小さい。

『十字架とカモノハシ』

場面2、推敲した結果。

 両手で握った携帯。イヤホンで聴く。
「頭の中を覗かれている、という理由で人気小説家に刃物で怪我をさせた、小説家志望の容疑者の裁判がこれから始まります」
裁判所にぞろぞろ入って行く人々。携帯で見ると、その人達はとても小さい。このスクリーンは、海底や地底よりずっと深くて、世界と繋がっている。

『十字架とカモノハシ』

ポイント:情景に深さを出している。小説世界をしっかり構築する。180度視野が広がり、限りない深さも出す。


場面3、書き直す前の文章。

空を覆う背の高いポプラ並木を抜けたそこには、動物園の看板。途端に動物園の匂いがしてきて、聖華は嫌な気持ちになる。
「なんで動物園だったの?」

『十字架とカモノハシ』

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