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【障害のこと】脚の手術で入院したときに見た風景⑥ゲームと"外"を知らない子

車椅子に乗れるようになると、こどもたちが集まる大広間にも気軽に行けるようになった。
ある日、フローリングのワックスがけで業者が入るというので、ほとんどの入院患者は大広間に集合した。こんなにこどもがいたのかと、改めてその密度に驚く。

暇潰しで携帯を持っていく。
ほとんど全員が録画で流れるプリキュアのテレビに注目していた。わたしは入院中に少しでもお金になればと、ポイントサイトのミニゲームをやっていた。シンプルなもぐらたたきゲーム。使うのは人差し指だけ。
その画面を見ながら、気にしてそうで、気にしてないと目を反らす、でも明らかに気にしてそうな素振りで見ている女の子がいた。

その子は腰が曲がっているので、背骨か発育状況に障害があるのかも知れない。
年齢を聞くと16歳。背の小ささと服装や口調で、実年齢よりかなり幼く見えた。

携帯は持っていないらしい。
親との連絡はどうしているんだろうと思ったが、なんだか悲しい返答が待っていそうで聞かなかった。

しばらくわたしが操作する様子を見ていたが、恐る恐る、「...あの、やってみてもいいですか?」と、やっと聞いてくれた。
操作方法を教える。画面のスタートボタンを押して、制限時間にもぐらをたたく、ただそれだけ。

彼女は何回も何回も何回もやった。
途中までは「もう一回やってもいいですか?」と聞いていたが、操作方法を覚えたら、かなり面白いのか繰り返し繰り返しやる。

「こういうゲーム、やったことあるの?」ときいたが、「いや、ないです」とだけ返答が返って来た。
彼女は小さいこどもたちとテレビ画面に流れるアニメを見始めた。小さい子のお世話を率先してやっている。一緒に画面を見ている。

自分の見てきた「16歳」とはあまりに違ったので、思わず看護助手さんにたずねた。


「携帯の操作もわからないと、この子たちはどうやって社会に出るんですか?」

親の都合やさまざまな理由で、18歳までこの病院での暮らしが続く子もいる。その後は福祉施設などで働く場合が多いと助手なおばさんが教えてくれた。

「横断歩道や歩道橋の渡りかたもしっかり習ってないくらいだからねぇ」その後の言葉はなかった。

18歳の、その後はどうなるのだろう。
16歳の少女のこの優しさは、この施設を出たとき、たちまち弱さに変わってしまわないだろうか。

ここは彼女たちにとって、一番安全で安心できる場所だろう。少なくとも今は。たとえ、親に会えない寂しさや、食べたいごはんや娯楽が極端に少ない世界だとしても。

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