先人たちが温めてくれた、京丹後の「チャレンジしやすい土壌」【TLLイベントレポート #3】
7月29日に行われたイベント「“しごと“を見つめ直すフィールド 〜ローカルイノベーターの宝庫:京丹後に学ぶ〜」のレポート第3弾。京丹後で事業を立ち上げたお二人をお迎えし、事業者としての視点から京丹後について語っていただきました。
一人目のゲストは、食の事業を手がける合同会社tangobarの関 奈央弥さん。もともと京丹後市の出身で、東京で5年間小学校の管理栄養士を務めたあと、京都市内で缶詰の商品開発の仕事に携わり、4年前から丹後で食に関わる仕事をするために地域おこし協力隊の制度を利用して京丹後へUターンされました。
関さんが掲げるビジョンは「作る人と食べる人を繋げることで、食を通してより良い世の中をつくる」。事業をおこしたきっかけは、管理栄養士時代に感じた、子供たちに食の大切さを伝える難しさでした。
関:「小松菜は栄養があるから食べた方がいいよ」とか、正しいことを伝えても、なかなか体には入っていかなくて。その中で、自分が口にする食材を誰がどこでどんな風に作っているかという過程を伝えると、苦手で食べれなかった子も思いを知って理解して、食べられるようになる変化を目の当たりにしたんですね。スーパーで野菜を買うだけでは得られない、作る人と食べる人を繋ぐことに価値があるのではないかと感じました。
そのような経験をした後に地元の京丹後を振り返ると、綺麗な海山川田畑があって、農家も漁師も料理人もいる。非常に可能性のある地域だと感じて、Uターンを決意しました。
現在は、二つの事業に注力されていると言う関さん。一つ目は缶詰の商品開発で、市内の久美浜町という牡蠣の養殖が盛んな地域と連携し、加工を通して生産者さんの販路拡大を目指しています。1〜4月が収穫期の久美浜の牡蠣は、春先になると消費者からイメージが消えてしまい、売りに出しても値がつきづらいそう。一方、春の牡蠣は冬のものよりも身が大きく加工に向いているので、缶詰にすれば付加価値をつけて世に送り出すことができます。
二つ目の事業は、京丹後の農家、漁師、酪農家など、さまざまな食のプレーヤーと企画する体験プログラム。個人や団体とも連携し、現場で足を運ぶことでしか得られない食の体験を届けていく予定です。
二人目のゲストは、京丹後で三軒のアウトドアサウナ施設の立ち上げ準備真っ最中の足立 樹律さんです。
足立:大学を卒業して東京の広告代理店で働く中でサウナにのめり込んでいき、長野のアウトドアサウナを訪れた際に激しく感銘を受け、「アウトドアサウナという概念を広めねば」という謎の使命感を持ちまして。当時の職を辞め、そこで働かせていただくことになりました。
この施設は山奥にありながらも年間1万人以上もの人が訪れ、まちを活性化する一大コンテンツになっています。アウトドアサウナとローカルの相性の良さを確信し、地元である京都で拠点を探し始めました。
場づくりの方向性としては、僕自身が京都出身ですが京丹後に来たことがなかったので、やはり市外の方に来てもらうきっかけのひとつにできればいいなとは思ってます。あとは、この施設から人と人とのコミュニケーションが生まれて、村全体の幸福度をあげていく場所にしていきたいですね。
「敷居の低さ」は、先人たちがあたためてくれたコミュニティのおかげ
菊石:ここまでのお話でも、温かい人のつながりがあることがわかったのですが、実際にはどのように関係性を広げていらっしゃるのでしょうか。
関:私は京丹後出身ですが、地元には高校の同級生との繋がりしかなくて、地域事業者や上の世代とはほとんど面識がなかったんです。関係が広がったきっかけは、ある人の紹介でした。行政で食の領域の方を沢山訪問されている方で、そこから数珠繋ぎ方式でどんどんご紹介いただいて。
足立:僕も同じで、あの人に出会わなかったら今の自分はないみたいなキーマンがいますよね。先人の方たちがコミュニティをあたためてくれたから、僕らの番までまちの人が繋げてくれる土壌ができて、敷居も低くなったと感じています。
菊石:良い意味でお節介というか、「このまちを良くしていこうと思うなら手を貸すよ」という方がとても多い印象ですね。ここまで良い話ばかり出てきていますが、逆に難しさはどのあたりで感じますか?
関:缶詰も体験プログラムも売り先が都市部の方になるので、実際に接点がないとニーズが把握しきれない難しさはありますね。
足立:僕の方は今工事のフェーズで、スタッフさん探しでは苦戦してます。大学がないので若い人が少なくて。あとは、事業者さんの数も少ないので自分でやらなくちゃいけないことが沢山あります。解体作業で壊しちゃいけない柱を壊したりしてしまったり……(笑)。地元の人や、長野時代にお世話になった方々に助けていただきながら、なんとかやってます。
山下:そういった助けを求めたら応えてくれる関係性が都市部ともつくれると良いのでしょうね。それでは最後に、「自分の事業を通して京丹後をこうしたい」というビジョンはありますか?
関:やはり原体験として、作り手の想いやストーリーに触れて、子供たちが苦手なものを食べられるようになったといった景色が強く残っています。自分の目の前の食材が自分の知っている人と繋がることが当たり前の世界を実現したいですね。
足立:僕はやはり、サウナは人々の生活をより豊かにするコンテンツだという想いがあるので、それが丹後の生活の一部になることを目指しています。サウナには、自分のリズムに戻すというか、自分の中に余白を作る効果があると思っていて。自分が本当にやりたかったことを見つめ直すことが習慣化されることで、地域の人の幸福度もより上がるのではないかと思っています。
山下:最近、サウナ会議のイベントもされていましたよね?一緒にサウナに入って話す時間がきっかけで、他の人がアイデアを重ねてきてくれて、それがまた他の人の発想を刺激して、といった広がりも生まれそうです。
せっかくなので長瀬さん、京丹後在住の先輩として何かお二人にアドバイスがあれば。
長瀬:いやいや、アドバイスできるようなことはないです(笑)。強いて言うならば……地域の中では、お金よりも大事な価値観で動いていることが往々にしてあります。「関係貯金」「信頼資本」という言葉がありますが、関係性はお金では買えないなと日々気付かされるので、そこを大事にしていけばなんとかなるんじゃないかな。
実際に事業を手がける方ならではの手ざわり感あふれるエピソードに感化され、思わず自分まで「何かやりたい!」とソワソワしてしまうほどのトークセッションでした。サウナのお話で出た「本来の目的を思い出すための余白」という言葉は、そのまま京丹後エリアにも通じるような気がします。目の前の目標に追われてる人、組織にこそ、是非足を運んでほしいと改めて思いました。
次回、最後のセッションでは、関さんと足立さんに加えて丹後リビングラボの長瀬さんとIDL白井さんを迎え、イベントのテーマでもある「仕事を見つめ直す」にフォーカスします。