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テキスト『マスターデザイン』

【登場人物】
1 三橋
字幕 パートナー

《一場》
― ①コンクリート

1、登場している

1 それでは、始めます

1、 スライドを一枚投影する
海の写真。窓から外を見たような感じ

1、退場
1、 再登場
靴を脱ぐ
電気をつける
準備を始める(散らかしている?)
リュックをおろす、財布とスマホ、定期とかポケットのものを取り出す
音楽をかける(Mr.Children『未来』or ポルノグラフィティ『ハネウマライダー』)
お湯を沸かす準備、その空間でリラックスする準備のようにも見える
舞台上には、机と椅子
その机の上には、パソコンがあり、
植木鉢、水、ノートなどが置かれていく。
1は、メガネを拭いたり、少し指の体操をしたりと、準備をする。


お湯が沸く
音楽を止める
ほうじ茶を淹れる

1、風船を持ってくる

1 将来ね、僕、結婚したいんですけど、それで、風船持ってまして。
1 きょう、お子さんがいらっしゃったらお渡ししようと思ってたんですけどね、

1 申し遅れました。三橋亮太です。よろしくお願いしますね。僕は今現在、21歳で、大学に通っています。

風船を示す

1 (風船)一回、置きます

風船が飛んでいく
視線が上に行く

1 はい。

「シーン①」
1は、台本を取り出す
今後、「シーン」と書かれた箇所は、立ち上がり読むものとする
「シーン」では、わざと演技をしている感じにする

1 (演じます。)

1 さっき結婚したいって言ってたんですけど、
1 あ、で、パートナーも呼んでるんで、紹介しますね。

字幕 「どうも、」
字幕 「よろしくお願いします。」

1 はい、お願いします。いま、ふたりで結婚を考えていて、
将来は、どうしようかって一緒に相談しています、

空間を見渡す

1 あ、そうだ、ここめっちゃ、コンクリートでしたよねー、
1 打ちっ放しっていうか、そういう感じの建物っていいですよね。
1 住みたいなぁ。
1 どう?
字幕 「えー、どこでもあるじゃん。」
1 え、どういうこと?
字幕 「コンクリートの建物って、個性なくない?別にどこに建てても同じじゃん。」
1 あー、
字幕 「実際、個性的ではあるけどね~、」
1 うん
字幕 「20世紀から流行ったんだよね。」
1 コンクリート?
字幕 「そうそう。」
1 あ、えっと、この人、建築学科に通ってます、ばーん。
字幕 「どうも。」
字幕 「これ見て。」

ル・コルビュジェの写真が出てくる。

1 え、だれ?
字幕 「ル・コルビュジェ」
1 あぁ、変な名前。
字幕 「芸名。」
1 芸名なんかい、え、芸能人?
字幕 「いや、外国人。」
1 やや、そういうことじゃなくて。何の人?
字幕 「あ、建築家。本名は、シャルル=エドゥアール・ジャヌレ=グリ」
1 ほーん、
字幕 「で、これ。」

ドミノ・システムの図を出す。

1 え、設計図?
字幕 「これは、ドミノシステムってやつで、このコルビュジェって人が作ったやつ。
1914年くらいのやつ。」
1 めっちゃ昔だね。
字幕 「丈夫なコンクリートでしか作れないよね、こんな形。」
1 うん
字幕 「コンクリートのいいところは、
どこでも作れるし、安く使えて、きちんと強度もあるところなんだよね。」
1 いいね。
1 あ、じゃあ、どういう家に住みたいの?
字幕 「なんか、ちゃんとした意味で個性的なところがいいなぁ。」
1 (ん)?
字幕 「風土に合ってて、生活をするために建てられてて、
そこの土地で住む理由とか、環境とかが考えられてるやつがいい」
1 風土に合ってる?
字幕 「そうそう、」
1 あれ、さっきの、コンクリートじゃだめなの?
字幕 「うん、どこでも良いからね、究極だけど。
やっぱどこで生きるかとか、そういうのって大事じゃない?」
1 んー、そうなのか。
字幕 「あ、でも、コルビュジェのあれとかは確実に必要なことだよ。
簡単にたくさん作ることが出来る家を作らなきゃいけなかったからさ。」
1 あ。うん、

ラインの通知が来る

字幕 「ラインきたよ」

ニュースのURLが届いている

1 あ、うん、

1 で、このあいだ、ラインがこんな感じで届いたんですよ。

― ②街開き

1は、ここから座る

1 こういうニュースです。
1 今年の5月26日、街開きイベントが行われました。
宮城県名取市閖上地区です。東日本大震災の津波によりこの地区は甚大な被害を受け、ほとんどの建物が流されました。
そこから5メートルのかさ上げを行い、新たに市街地を整備しました。
その街開きイベントが、今年の5月26日に行われました。あれから8年です。

ラインの通知がくる

字幕 「ラインきたよ」

名取市HPのURLが届いている

1 そのあと、また、届いて。
1 これ、チラシですねえ。

ポスターの紹介をする。

1 あの、譜面絵画の次回公演として、陸前高田と東京で演劇公演を行います。
陸前高田は12メートルのかさ上げを行いました。近くの山を切り崩し、土砂を積み上げ、現在、新しい道路や、建物が作られている最中です。

1 建築の「転換点」として、建築というものは、悲劇によって、転換をしてきました。
その悲劇は、大きな災害や、大不況です。
そのような悲劇が、建築の世界には大転換をもたらし、デザインを大きく変化させたそうです。

(画像を出す)
1923年、関東大震災では、10万人の方がなくなりました。
木造都市の東京が火の海になったことをきっかけに、日本の建築は大きく転換しました。
建築関係の法律が変わり、不燃・耐震建築の研究が進み、日本の建築はまったく違った姿のものになりました。
震災以前のその頃の日本は、こんな感じです。
(https://www.youtube.com/watch?v=zWAlo33H04g&feature=youtu.be を流す)
大正時代です。ほぼ100年前ですね。
 
1 1666年、ロンドン大火では、木造都市だったロンドンをレンガの都市に変えました。
1 今のロンドンの家はこんな感じです。煉瓦造りですね。

1 1871年、シカゴ大火は、不燃構造、鉄骨構造を飛躍的に発展させ、
20世紀の超高層建築群が生まれました。
大火後唯一残った、シカゴ・ウォーター・タワーというものがあります。これです。(写真を出す)

1 そして、最も大きく、決定的な歴史の転換をもたらした大災害は、
  1775年、11月1日、全ヨーロッパを恐怖に陥れた、リスボン大地震です。

震災当時のリスボンの写真を出す

1 諸説ありますが、死者5、6万人と言われています。
この大災害をきっかけとして「近代」と呼ばれる時代が始まったとも言われます。

1 人口70億時代の東日本大震災は、死者・行方不明者が約2万人でした。
人口7億9千万人時代の5〜6万人の意味は大きく、このリスボン大地震は文化、政治、経済をまたがり、国境を超える圧倒的なインパクトを世界に与えました。

今のリスボンの写真を出す

1 リスボンはポルトガルです。
今のリスボンはこんな感じです。
トラムという路面電車が走っていたり、(写真を出す)
ポルトガル料理のリゾットが有名らしいです。(写真を出す)
あとは、ハムとチーズだったりも有名らしいです。
あとは、エッグタルトが有名ですね。(写真を出す)
シーフードとお米がよく食べられており、日本人がいっても意外と親しみやすそうですね。
他にもジェロニモス修道院や、(写真を出す)
ベレンの塔といった、世界遺産もあるので、(写真を出す)
観光としてもいい街っぽいですね。(https://www.youtube.com/watch?v=N8bHCHl8X_0 を流す)
今あげた二つの世界遺産がある、ベレン地区は、リスボン大地震の難からは逃れたそうですが、地震により川の流れが変わったため、ベレンの塔は、川の中洲から、川岸へと位置関係が変わったそうです。

1 人も生物なので、建築という巣がしっかりしていれば生命だけが助かると思います。それが自然な心理です。(巣の写真を出す)巣っていうのは、いわゆるこういうのですね〜。
1 そして、地震以前、むかしのリスボンはこちらです。

そのころの、リスボン建築の写真を出す

1 人間を守ってくれる、強く、合理的な建築を人々が欲しました。
人間のための強く合理的な建築を実現し、十分な量を供給するためには、十分な量を供給するための「材料」も必要となります。それを叶えるのが、鉄、コンクリート、ガラスを始めとする材料でした。

鉄、コンクリート、ガラスを使った道具をしめす
鉄、iPhone
コンクリート、壁
ガラス、水を飲んでいるコップ

1 リスボン大地震以降は、強く合理的な建築を作る環境、強い巣を作るために、(可愛い巣の写真を出す)人類は必死になって建築を強く、大きくしていきました。(東京駅の写真を出す)

1 19世紀、この「合理的な建築」は、リスボン以降発展した近代科学、近代的政治、経済システムの助けを借りて、一気に具体化、現実化されました。強く合理的な建築は、すさまじい勢いで世界を覆い尽くしました。1775年以降の建築史は、そのように総括できます。

字幕 「あのさ、やっぱり、」
1 あ、いいとこだから、ちょっと待ってて、

― ③住みよい

1 世界がブルドーザーのように近代化し、合理化していきました。(ブルドーザーの写真を出す)その中で、一つ考えられることがあります。この「合理的な建築」が、世界の多様性を奪っていったことです。誰もが知っているように、世界には様々な場所が存在し、それぞれに固有の自然条件(気候、土壌)があり、文化、歴史があります。(日本の気候、土壌、文化、歴史の写真を出す)しかし災害から人を守る「強い建築」は、そのような場所の固有性よりも、強さ、合理性を優先したのです。難しいですね。コンクリート、鉄などのどこにでも手に入る強度のある材料を使って、とにかくどんどん建築を作ることが、「災害後」の緊急課題とされました。地元の石や木を使って作る建築は、手っ取り早く強さとかを獲得するには、確かに不向きですね。安定供給という面でも不安がありました。振り返ると、この新しく登場した合理的建築は、19世紀産業革命以降の工業化の流れとぴったり一致していました。

1 どちらがいいのか、私にもまだわかりません。ただ、現在まで建築家などのあいだで、その葛藤は繰り返され続けています。バランスや時代性と言ってはそれまでかもしれません。

1 では、一旦、わかりやすくするために、ここまでをラップにしたいと思います。

ビート|
ワルノリデキマッテル/漢 a.k.a. GAMI

リリック|
建築の転換点の話を展開する
大きな災害時 変化起きる 最大に
リスボン地震 理由と意味 自分の道 そう 近代始まる
巣を 強く しようと するのは 本能
合理 的 建築
転換点 可能性ではなく、生産性を天高く
多様性はなくなった? ただの均一化?

1 はい、どうも。

1 さてでは、次は違う視点から考えたいと思います。じゃあ、私たちはそのように作られた建築や空間とどう関わっていくべきなのでしょうか。作る側じゃないでうよね、使う側の私たちです。空間とは、環境とは、私たちは、どう関わるべきでしょうか。

1 そんなことを職業にしている人がいます。
1 ランドスケープデザイナーという職業です。(雑誌「ランドスケープデザイン」の表紙を出す)なんだかよくわからないですよね。簡単に説明すると、「ランドスケープ」とは、「風景」や、「景観」と訳されるので、「ランドスケープデザイン」とは、「風景や景観の設計」という意味になります。

1 もう少しランドスケープデザインの方を、ご説明します。
1 多摩美術大学のサイトを見るとわかりやすいんですけど、

http://www2.tamabi.ac.jp/kankyou/about/ を開く

1 多摩美術大学の環境デザイン学科では、三つの分野が設けられています。インテリア、建築、ランドスケープです。

サイトをすすむ

1 これを見てもらうとわかりやすいと思います。
1 空間を捉えるときに三つに多摩美では、分けているそうです。読みますね。椅子やテーブルといった家具、ウインドウディスプレーやショップのインテリア、住宅やオフィス、タワーのようなモニュメンタルなものまでを扱う建築、街並や公園のように大地と自然と向き合うランドスケープ。3つの領域の関係は、扱うスケールやデザインへのアプローチの違いによって、図のような関係となっているそうです。「インテリア」、「建築」、「ランドスケープ」と少しずつ屋外に広がる感じですね。

「シーン②」

1、立つ

字幕 「あ、あのさ、」
1 ん?
字幕 「やっぱり、子どもは別に欲しくなくて、」
1 あ、うん、
字幕 「ごめん、」
1 あ、そっか、いや、そっか。
字幕 「言おうと思ってたんだけど、ずっと、」
1 いやいや、全然大丈夫、そっかそっか。

1、 座る。

https://kotobank.jp/word/ランドスケープ・デザイン-186487 を開く

1 で、コトバンクでは、こんな感じに載ってます。

1 「建築およびデザインの分野では、都市における広場や公園などの公共空間のデザインをいう。」「表参道ヒルズは、周辺の景観との調和に配慮された低層建築である。屋上には庭園が設けられ、植栽が成長するとケヤキ並木の緑と一体化するという、まさに景観のデザインが実践されている。」

1 こういうことが、実践的なランドスケープデザインということです。過ごしやすい公園や広場などの、人と人が出会い、物語をつくるための空間を、自然や建築などを検討しながらデザインするというわけです。

1 ちょっとすみません、

1、水を飲む
1、水を植木鉢に注ぐ

1 あ、造花です。

「シーン③」

1、立つ

字幕 「どっちかっていうと、一緒にいたい方が強いっていうか、」
1 あ、ありがとう。ま、平面だけどね、そっちは。
字幕 「ま、うん。」
1 うん。あ、ごめん、
字幕 「あ。あと、結婚なんだけど、」
1 え、
字幕 「いや、したいんだけど、」
1 あ、うん、
字幕 「今も言ってたけど、婚姻届を書くことは不可能なわけじゃない?私は、」
1 まぁ、うん、
字幕 「だから、事実婚って形でもいい?」
1 あ、うん、てか、何が違うの、届けを出すのと、
字幕 「え、いや?」
1 え、いやじゃないんだけど、普通に、気になって、
字幕 「なんか、公的に有効になるときあるんだって、」
1 あ、そうなんだ、
字幕 「関係は変わらないしさ。」
1 うん、
字幕 「大丈夫?」
1 あ、うん、わかった。
字幕 「プロポーズみたいで恥ずかしんだけど、」
1 あ、え、今のくだり?
字幕 「あ、うん、」
1 あ。そっか。
字幕 「こんな感じの私と一緒にいてくれてありがとう、」
1 うん、こちらこそです、

字幕 「風船、」
1 あ、うん、

1、風船を回収する

1 えっと、ご覧いただきありがとうございました。
  新婚旅行に、リスボンおすすめだと思います。ありがとうございました。

幕。

引用
・隈研吾 2012年 『場所原論―建築はいかにして場所と接続するか―』市ヶ谷出版社

参考文献
・武田史朗+山崎亮+長濱伸貴 2010年 『テキスト ランドスケープデザインの歴史』学芸出版社
・小野寺康 2014年 『広場のデザイン「にぎわい」の都市設計5原則』彰国社
・八木健一 2002年 『はじめてのランドスケープデザイン』学芸出版社
・日本デザイン学会 環境デザイン部会 2012年 『つなぐ 環境デザインがわかる』朝倉書店
・隈研吾 2008年 『自然な建築』岩波書店

お読みいただきありがとうございました。