にゃ

ロシア・東欧の国際列車と国境特集

にゃ

ロシア・東欧の国際列車と国境特集

マガジン

  • 2022年ロシア留学記

    そこにあったのは日常だった。

  • 幸福な街たち

    創作集。幸福な街たちの裏側に、こんな感情たちがあれば良いなと思う。

  • 2019年スラヴ周遊記

    日常だったあの国境たちを想って。

最近の記事

  • 固定された記事

モスクワに留学していたら戦争が始まった話-1

はじめに  この記録は、私が2022年1月末から3月末までロシア連邦の首都・モスクワに長期語学留学生(所定修了予定は2022年8月末)として滞在した時のものである。弊ブログ旅行記や本記事の文中にも記載があるが、私には過去にロシアに4回、ウクライナとベラルーシにそれぞれ2回の渡航歴がある。基本的にはどれも旅行なのだが、ウクライナについては西部の都市・リヴィウにて3週間ほどのウクライナ語プログラムに参加している。  ご存知の通り、2022年2月24日にロシアはウクライナに自称「

¥300
    • 日帰りベルリン—後編

      ↑前編 ポズナン中央駅からチェックポイント・チャーリーまで 壁を巡る  バスと地下鉄を乗り継ぎ、たどり着いたのはベルナウアー通り駅だ。このベルナウアー通りに沿って、かつて壁が築かれていた。  窮屈な階段の上には、9月の清々しい空が広がっていた。いかにも中欧の首都の街並みといった趣の街路は、朗らかな陽気も相まって、かつての東西の最前線であるとはまるで信じられないような長閑さだった。  しかしながら、通りに沿って南西に歩くとすぐに壁の遺構が視界に入る。ここはベルリンの中で

      • 日帰りベルリン—前編

        西へ  朝7時のポズナンは肌寒く、9月らしい秋の陽気であった。それでいて日は高く昇りつつあり、輝かしい夏の香りも充分に感じられる、1年の中で最も優れた季節を迎えていた。  いかにも増築に増築を重ねたといった風情のポズナン中央駅の西端は、駅構内の中でもひときわ前時代的な様相を呈している。有り体に言ってしまえばいかにも「東臭い」、そんなプラットホームに一本の列車が豪快に滑り込んできた。  ベルリン・ワルシャワエクスプレス——ドイツとポーランドの首都を1日4往復結ぶ、昼行国

        • モスクワに留学していたら戦争が始まった話-7

          ↑前回 2月24日(開戦当日)の記録 それでも街は美しい  とくに起床後に予定があるわけでもないのに、朝がこれほどまでに恨めしいと思ったことはなかった。まだ空も明けきらない寒い部屋の中で起きだして、学校やアルバイトに向かわないといけない朝の方がまだいくらかマシなような気さえした。どん底近くまで沈み込んだ心中もさることながら、昨日の就寝前に感じ始めた胃と背中の痛みも顕著に表れており、まさしく文字通り心身ともに苦痛に包まれていた。  インターネットなど見たくもなかったが、自分

        • 固定された記事

        モスクワに留学していたら戦争が始まった話-1

        ¥300

        マガジン

        • 2022年ロシア留学記
          8本
        • 幸福な街たち
          3本
        • 2019年スラヴ周遊記
          6本

        記事

          ふたたび雪のなかで-1

           首都は涙を信じない  そろそろ降下が始まるだろうかという頃、冬にしては珍しく眼下に街の灯がとたんに広がった。一体どこの街か、機内モニタの地図で見ても判然としなかったが、薄ら青と橙と、わずかに濃い紅を残した空にぼんやりと擁された街は、長い長いシベリアの横断に終止符が打たれようとしていることを示していた。慎重に冬の空を下っていく最中、機内も俄かに忙しさを帯びてくる。客室乗務員も乗客も、せわしなく機内を行きかい、凍土とともに凍り付いていたかのように思えた時間を急激に溶かしていく

          ふたたび雪のなかで-1

          りんごの街

           恐ろしいほどに山が近い。それがこの街の第一印象だった。  前日の朝にウズベキスタンの首都・タシケントを発った列車は、カザフスタンの旧首都・アルマトイの市街地に滑り込み、丸一日近い旅路に終焉を迎えようとしていた。ついほんの数時間前まで、見渡す限りの乾いた草原が広がっていた車窓には、いつの間にか急峻な山脈がつい喉元まで迫っているかのような圧倒感と共に聳え立っていた。より手前に視線を向けると、緑豊かな木々に囲まれた大通りを、これもまた鮮やかな緑色をしたバスが行き交っていた。この

          りんごの街

          モスクワに留学していたら戦争が始まった話-6-戦争が始まった日

          ↑前回 2月23日(開戦前日)の記録 2月24日 朝  モスクワ時間、午前8時。アルコールの支配から抜けきらない頭は、少し早くなった日の出の光によって叩き起こされたような心地だった。ここのところ徐々に晴れ間が見える日も増え、陰鬱とした雰囲気も幾分か緩和されていく、春の兆しがどこか見えるような気がした。それにしても、今日ばかりはもう少し寝かせてくれてもよかったのにと、我儘にもそう思った。  意識がはっきりしてきた頃、そういえばあの後結局どうなったのだろうと思いTwitter

          モスクワに留学していたら戦争が始まった話-6-戦争が始まった日

          モスクワに留学していたら戦争が始まった話-5-開戦前夜

          ↑前回 2月21日(開戦3日前)までの記録 日常・2.23  2月23日はロシアでは祖国防衛の日で、授業は休みだった。授業とはいっても学期が始まってはや1ヶ月、ずっと寮の自室に籠ってオンラインで受講することにも嫌気がさしてきていた。時々「来週から対面授業」という噂が流れることもあったのだが、実際に教室にて授業を受ける日が来ることは一度たりともなかった。  モスクワ市民たちの衛生防疫意識はお世辞にも高いとはいえないのに、機関の意識だけは不均衡かつ過剰なまでに高く、どうやらそ

          ¥200

          モスクワに留学していたら戦争が始まった話-5-開戦前夜

          ¥200

          Счастливые города-3

          Ленинский проспект  煙突から絶えずもうもうと立ち上り、ひたすらに空を厚く覆う雲に還ろうとする蒸気。それを額縁のごとく着飾ろうと、手前にうっすらと立ちはだかる枯木たち。ビル群はモスクワ都心の周縁らしい、軽い荒涼さを匂わせながらも、十分すぎるくらいに発展しきった街並みを見せている。  寮の1駅手前にある地下鉄駅から地上に出て買い出しに向かう道すがら、ふっと右手に広がるその姿を私はこの街で1番愛していた。特にこれといった絶景でも何でもない、どちらかといえばあり

          Счастливые города-3

          Счастливые города-2

          Лесная  油を熱し、ニンニクを投入する。まだまだ調理の序盤であるが、ふわりと立ち込める香ばしい匂いに既に思わずうっとりとしてしまう。やはり広いキッチンは良いものだと、私は小躍りになりながら鍋を揺らした。  「ナターシャ!マジでいい部屋だな、ここ!」  隣室で荷ほどきをしている親友に声を張り上げて呼びかける。新居での準備に忙殺されている彼女よりも、引っ越しから押しかけてきた客人の私の方がよほどはしゃぎまわっているようである。  「でしょ!マーシャさんが紹介してくれたの。

          Счастливые города-2

          Счастливые города-1

          Архангельск  見渡す限り白色の雪原に、街灯柱が刺さっていた。無限の原野に見えるこの下には大河が眠っており、遠い雪解けの日を静かに待っている。  確かにどうしようもない街だった。規模の大きな地方都市というだけあってショッピングモールは充実していたが、長居する場所ではおそらくない。同僚のイーゴルが「本当に終わってる、ヤク中しかいねえよあんなところ!」と散々こき下ろしていたほどではないにしろ、地方都市特有の淀んだ空気をところどころで肌で感じた。間違いなく、彼のように1

          Счастливые города-1

          モスクワに留学していたら戦争が始まった話-4

          ↑前回 サンクトペテルブルクでの記録(2月11日) クレムリンの大統領旗  モスクワは美しい街だ。煌めくクレムリン、正教会たち、ソ連時代に築かれた荘厳なスターリン・ゴシック様式の高層建築たち、そして近未来的な超高層ビル群。その全てが混沌と入り交じりながらも、独特な調和を形成して豊かに日々が過ぎていく。これほどまでに心が躍る街は、私にとってこの星には2つとない愛おしい存在である。  しかし、それをもってしても冬は辛く厳しいものである。日本でそう話すと多くの人は「寒いでしょ

          モスクワに留学していたら戦争が始まった話-4

          モスクワに留学していたら戦争が始まった話-3

          ↑前回 ロシア渡航前夜(1月24日)から2月7日までの記録 古都へ  2月11日、私はロシア第二の街・サンクトペテルブルクに降り立った。前々からずっとあこがれていた古都に、ようやっと足を踏み入れた瞬間だった。  初のペテルブルクは「赤い矢」号に乗ると決めていた。ロシアの鉄道といえばシベリア鉄道、という印象は根強いが、彼の国の鉄道にとってモスクワとペテルブルクを結ぶ寝台列車はやはり看板である。特徴的な赤い塗装に加えて特別感あふれる内装が施され、乗務している車掌の物腰も他列

          モスクワに留学していたら戦争が始まった話-3

          モスクワに留学していたら戦争が始まった話-2

          ↑前回 本記録の概要 冒頭の筆者プロフィールは無料で読むことができるので、前回『モスクワに留学していたら戦争が始まった話-1』を未読の方はその部分だけでも読んでいただきたい。 旅のはじまり—ヘルシンキにて  2022年1月24日。2年ぶりとなる海外での夜は、フィンランドの首都・ヘルシンキで迎えることとなった。翌日にはこの先7ヶ月間の住処となるモスクワへと旅たつ、この街は経由地であった。本来なら高揚感と疲労感の間で眠りにつくのが自然なところであるが、一抹の不安を抱きながらベ

          モスクワに留学していたら戦争が始まった話-2

          国際夜行列車を逃した時の話&ブダペストからクラクフへ国際昼行列車で行く話

          はじめに—ドナウの真珠にお別れを  「さようなら、ブダペスト。」  6月も終わりに差し掛かろうとしていたある日、私はブダ地区にある王宮の丘からドナウ川の向こうに広がるペスト地区を眺めていた。イヤホンから流れる曲はモルダウ——それはチェコの曲だろうと思われるかもしれないが、この街にも素晴らしいほどによく合う——で、ブダペストに滞在している間ドナウ川の岸を歩きながら幾度となく聴いたものだった。  私はブダペストを世界一美しい街だと思っている。この街に出会ったのは3年前、ウクラ

          国際夜行列車を逃した時の話&ブダペストからクラクフへ国際昼行列車で行く話

          もうひとつの隣国〜ポーランドを旅して〜

          はじめに 3年前、コロナ前最後の中東欧旅行の終わりはポーランドだった。ワルシャワ・ショパン空港から飛び立った飛行機の窓から、「どうせまたすぐ近いうちに来るだろう」と呑気なことを考えていた。  実際は「すぐ」と言うのにはあまりにも長い時間を要した。忌々しき感染症によって、国どころか家からすらまともに出ることが憚られるという時代が到来し、少し状況が改善して県境を跨ぐくらいはできるようになっても国境を越えることはまだまだ程遠かったものだ。  幸いなことに、3年以上の時をかけてよ

          ¥350

          もうひとつの隣国〜ポーランドを旅して〜

          ¥350