見出し画像

あなたは「猫」から何が見えるか | 見るトレ

こんにちは、コピーライターの梅田悟司と申します。先月に続いて、見る力を鍛えるトレーニング「見るトレ」をお届けします。第二回目のお題は、みんな大好き「猫」です。

第一回目のテーマは「傘」でした。こちらの投稿は、noteおよび日経COMEMO初投稿にかかわらず、多くの方にお読みいただけたようでうれしかったです。「そもそも『見るトレ』ってなんだ?」「一ヶ月前のことで忘れちゃった」という方は、以下のリンクから、お読みくださいませ。

本題に入る前に「見るトレ」の趣旨をちょっとだけ復習しておきましょう。

コピーライターの仕事は「書く」ことであると思われがちですが、もっとも大事な仕事は「書く」の前にあります。それが「見る」ことです。ある商品やテーマを与えられた時に、瞬時に、その対象から何を感じ取れるか。それこそが勝負となるのです。僕が大切にしている「見る力」が、より多くの方の力になったらいいなと思い、本連載がはじまりました。

あなたは「猫」を見て何を思うか?

猫といえば、インターネットの大人気コンテンツです。SNSを立ち上げると誰が猫コンテンツを共有していますし、ネットニュースになっていることもしばしばです。猫と暮らしていない方でも、一日に一回は猫に触れているといっても過言ではないでしょう。

「目の前に猫がいます。あなたには何が見えますか?」

この問いに対して、皆さんはどう答えるでしょうか。

かわいい。なでたい。写真を撮りたい。猫になりたい。私は犬派。

こうした言葉が浮かんでくるかもしれません。しかし、猫と一緒に暮らしていたり、暮らしたことのある方からは、全く違った光景が見えています。

首輪してないな。外猫なのかな。ご飯はちゃんと食べてるかな。
うちの子は何してるかな。早く家に帰ってモフモフしたい。

そう、猫が一匹で生きていく大変さに思いを馳せたり、そこにはいない愛猫を重ね合わせたりするのです。猫に同じ一匹の猫を見ているにもかかわらず、このような差が生まれます。とても面白い現象ですよね。両者から見えているものの違いは、前回の説明でいう「自分の経験の有無による違い」といえるでしょう。

近年では、保護猫に関する情報も増えてきました。海外ではペットショップ廃止の動きも出ていますし、日本においても、保護猫との出会いをマッチングする猫カフェならぬ保護猫カフェも生まれています。僕も猫と暮らす愛猫家ですが、わが家の黒猫「大吉」も、元保護猫です。

彼ら彼女らの目からは、また違った光景が見えています。

耳に切れ込みがある「さくらねこ」だから地域猫かな。

耳にV字の切れ込みがある猫をご覧になったことはないでしょうか? 猫の保護活動をしている方々が野良猫を増やさないように去勢した印として、耳に切れ込みを入れており、その形が桜の葉に似ていることから「さくらねこ」と呼ばれています。

猫に関しては、人気が過熱する弊害として、人間な身勝手な行動に注目が集まり、社会的問題が浮き彫りになっています。こうした報道や意見を見聞きされている方も数多くいらっしゃると思います。そのため、「物理的視点」「情緒的視点」「社会的視点」の3階層から「猫」を見ることができる人が多かったのではないかと思います。

猫に紐づく「新しい動詞」に注目する

前回の「傘」のテーマで、見える情報を増やす方法として「物理的視点」「情緒的視点」「社会的視点」の3階層から対象を見ようとする方法をご説明させていただきました。しかし、その3階層すべてから見えてしまった場合、より多くの情報を見るためには、どんな方法があるでしょうか?

その方法の一つに、対象に紐づく「動詞」に着目することが挙げられます。今までは使われなかったような「新しい動詞」に注目してみるのです。

たとえば、僕はこの文章を書く中で「ある動詞」を使っていません。その言葉は、猫を語るときに常用される言葉です。なんだかわかりますか?

その言葉とは「飼う」です。僕は「飼う」の代わりに「暮らす・住む」といった動詞を用いています。もう、言わんとしていることはお分かりかと思います。人と猫の関係は飼うという主従関係ではなく、一緒に暮らす、住むといった並列な関係だと考えているからです。

動詞とは、事物の動作や状態を表す言葉です。日本語には多くの動詞が存在し、動詞には、関係性やその人のスタンス、感情の機微が含まれています。先に挙げた「飼う」「暮らす・住む」の間にも、猫に投げかけるまなざしの違いを感じますよね。

また、猫界に衝撃を与えた動詞に、アーティストの坂本美雨さんが生み出された「吸う」というものがあります。いままでは猫は「愛でる」「撫でる」「抱く」ものだったわけですが、触れるだけではなく「吸う」という概念が生まれたのです。どの言葉にしても愛情表現に関する言葉ではありますが、その関係性や愛情が深化していることがわかります。

猫に限らず、新しい動詞は発明されています。市民権を得ているものの「カレーは飲み物」という言葉も、その好例です。カレーが「食べる」ものから「飲む」ものへと進化した瞬間です。もちろん、モグモグ咀嚼はすると思うのですが、ゴクゴク飲みたいくらい好きという愛情を感じる表現になっています。

このように動詞に着目してみると「物理的視点」「情緒的視点」「社会的視点」といった枠組みだけでは感じ切れない、解像度の高い情報を感じ取ることができるようになります。季節柄「新語・流行語」が注目されますが、対象となるのは、名詞や台詞が大半を占めています。動詞にも注目しながら、今年の言葉を振り返ってみるのも面白いと思います。

似て非なる情報が「動詞」に宿る

見える情報を増やすためには、同じように感じられるけれど、実は意図していることが全く違う「似て非なる言葉」に対する感度を高めることが役立ちます。「飼う」「暮らす・住む」も、見る人によっては、同じように感じると思います。事実、同じ空間に同居しているという点では、同じ意味ですからね。

しかし、この両者を区別して捉えることから、見える情報量が変わりはじめるのです。ある人によっては取るに足りないような些細な違いかもしれませんが、ある人にとってはとても大きな違いだったりする。その感情の機微までを捉えようとする姿勢が重要なのです。

僕は、こうした捉え方の違いに思いを馳せることが、真の意味で、多様性を理解することにつながると考えています。見えない部分の多様性こそが、人間の多様性のなかで最も敬意を払うべきものだと思っているからです。

僕はコピーライターとしても、人間としても、似て非なる言葉の機微に感度高く向き合いたいと思っています。そして、叶うことならば、人と対象との関係性をより正しく表現し得る「新しい動詞」を生み出したいと願っています。

そして、このnoteおよび日経COMEMOをお読みの皆さんにも、こうした感覚と姿勢を持っていただけるとうれしいです。

第二回目のお題は「猫」でした。第一回目の「傘」のように身近にあるものを対象としながら連載を続けていきます。見る力を鍛えるトレーニング「見るトレ」を続けたいなと思われた方は、スキやフォローのご登録をお願いします!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?