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人間は生きているだけで業が深い:「もっと遠くへ行こう。」

シアーシャ・ローナンと「Aftersun」のポール・メスカルという、映画好きホイホイなキャスティングの「もっと遠くへ行こう。(原題:FOE)」がAmazon Prime Videoで配信開始されたので、さっそく鑑賞。

物語の舞台は、地球環境の悪化により、宇宙への移住計画がなされている2065年の近未来。移住のための調査団の一員として、田舎に住む若夫婦の夫が候補者になってしまう。

「インターステラー」をはじめ、”地球に住めなくなる未来”という設定は、昨今さまざまな映画で用いられている。実際、去年アメリカでは野外フェスの最中に豪雨に見舞われた参加者が一時孤立したことがニュースになったり、国連事務総長が「地球沸騰化の時代到来」と述べたことも記憶に新しい。東京も昨年の夏は本当に暑かった…近い将来、夏の日中は外出できなくなってしまうのでは?などと本気で思ってしまうくらい。
温暖化によって地球に住めなくなるという設定は、SFというより、もはや”予定されている未来”なのかもしれない。

シアーシャの台詞に、地球環境の悪化は「人間が奪ってきた」からだというシーンがある。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)でも、地球温暖化の原因は人間であることに疑う余地なしとしているし、自分の肌感覚でも人間が(より快適に)生きるために地球資源を好きに使ってきたツケなのだろうな、とは感じる。シアーシャの台詞はとても正しく聞こえた。

しかし、だ。地球にはもう住めないから宇宙に行きましょう、というのは、今度は月なり火星なり、地球以外の星の資源を「人間が奪う」ことに他ならないのでは?もちろん、地球での反省を活かして、効率よく使うように気をつけはするだろうけれど。

人間が生きている限り、誰か(何か)から奪わざるを得ないんだよな、と、どうしようもない申し訳なさ、諦めのような気持ちになった。人間は、生きているだけで業が深い。アダムとイブは楽園を追放されて地球に降り立った(?)くらいだし。

つい地球環境のことに思いを馳せてしまったが、この映画が描く人間の業は他にある。存在自体が詩的な二人の俳優が見せるちょっとドリーミングで胸をチリチリさせるやりとりこそが、とてもSF的だ。原題の「FOE」はそちらの側面をより推しだしているように思う。消滅しつつあるのに荘厳な大自然と、謎の男を演じるアーロン・ピエールの瞳が吸い込まれそうになるほど澄んでいる。まるで絵画のような、画的にも充足できる映画だった。

  • 「もっと遠くへ行こう。」(原題:FOE) 111分

  • 公開:2024年

  • 出演:シアーシャ・ローナン、ポール・メスカル、アーロン・ピエール他

  • 監督:ガース・デイヴィス

  • ©2022 Amazon Content Services LLC


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