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超短編小説:もうすぐカラフル

 いつもは子どもたちでいっぱいなのに、夏休みはひとりになれる空間。

 春子は掲示物を整える手を止めて、その空間を見渡した。

 今は自分しかいない空間。
 もうすぐ、子どもたちがやってくる空間。
 同じ場所なのに、あの子たちがいるのといないのとで、雰囲気が全然違う。不思議だ。

 今は空っぽの机たちも、あと少しすれば中身がいっぱいになる。一週間も経つと、きっと机の奥にプリントが押し込まれる子もいるんだろうな、と思うと、自然に頬がゆるんでしまう。

「もうすぐ終わりますねぇ、夏休み」
 廊下側の窓からひょいと顔をだし、声をかけてきたのは隣のクラスの重岡先生だ。

「そうですね」
「みんな順調に宿題やってますかねぇ」
「どうでしょう…。今ごろ焦ってる子もいるのかな」
「いるでしょうねぇ」
 うちのクラスだと例えば…、と重岡先生は数人の名前を出した。
「ま、元気だったら、それでじゅうぶんですけどね!」
 その通りだ、と春子は思った。
 大事なのは、宿題がぜんぶ終わっていることじゃないのだ。

 準備、頑張りましょー、と言って歩いていく重岡先生を見送り、春子は再び自分の作業に戻った。

 夏休みの終わりを嘆いている子はたくさんいるだろう。
 正直に言えば、春子だってちょっと、いや、だいぶ嘆きたい気持ちだ。

 でも。

 空っぽのロッカー、空っぽの机、そして空っぽのこの空間が、もうすぐカラフルに染まる。

 それはやっぱり、楽しみだ。

「よし!」

 春子は呟いて、気合いを入れ直した。


 もうすぐ、2学期が始まる。





※フィクションです。

 最近は、8月中に2学期が始まる学校も多いそうですね。

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