見出し画像

ショートショート:ねこの神社

 ねこがいる。

 言葉足らずだった。

 階段の途中にねこがいる。

 まだ伝わらないか。

 お稲荷さんの鳥居をくぐった先にある短い階段。そのど真ん中に、黒ねこがいる。

 いる、というよりは、佇む、とか、鎮座する、とかのほうがぴったりかもしれない。
 とにかく、神社の階段のど真ん中に、ねこがいらっしゃる。木々を抜ける太陽の光が良い具合に当たって、神々しさを醸し出している。頭に落ち葉が乗ってしまっているのでとってさしあげようかと思ったが、勝手に触るのもおそれ多く感じやめておいた。

 気まぐれな散歩の途中に見かけた神社で、予想外の嬉しい出会いだ。そもそもこんな場所に神社があるなんて知らなかった。
 なんだかありがたいような気がして、手を合わせる。ねこは大きな口を開けてあくびをした。

 次の日も、ねこがいた。やはり神々しい。
 昨日は気付かなかったが、階段の下には小さな段ボールが置かれており、そこにおやつやおもちゃなどの献上物が入っている。
 本当は直接あげたいけれど、ねこ様に失礼があってはいけないので他の人に倣い、某おやつをいちばん上に置いた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「おい、また置いていったぞ」
 声がして、うとうとしていた黒ねこは目を覚ます。ちらりと見ると、銀狐がにやにやしながらこちらを見ていた。
「さっきの人間がおやつを置いていった」
「そうか」
 黒ねこはうーん、と伸びをする。
 そして、ぴょん、と飛びはね、くるっと宙返りをすると、黒い狐に姿を変えた。
「お、うまいやつじゃないか」
 黒狐は某スティック状のパッケージに入ったおやつを器用に開けて、ぺろぺろ食べ始めた。俺も、と銀狐も続く。
「にしても、お前は良いことを思い付いたなぁ」
 もぐもぐしながら、銀狐は感心したように言った。
「良いことって?」
「ねこのふりをしておけば、うまいものが食えるってさ」
「ああ」
 おやつを食べながら、黒狐はにやりと笑う。
「最初は人間はねこにばっかり構って…、と癪だったけど、それを利用してやったってわけ」
「さすがだ」
「世の中、あぶらあげよりうまいものがたくさんあるんだぜ」
「そうだな!…あ、また誰か来たぞ」
 銀狐はあわてて隠れ、黒狐はまた宙返りをして黒ねこになった。

「あ!お母さん!ねこちゃんがいる!」
「あら、本当ねえ、かわいいわねぇ」
 黒ねこは親子をちらりとみると、かわいらしく「にゃーん」と鳴いた。





※フィクションです。
 小さなお稲荷さんの階段の真ん中に佇む黒ねこちゃんを見かけたところまでは実話です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?