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透明な冬を白く染め上げ、

冬、気温と体温の差異で白く染まる息を見るたびに生きていることをつよく実感させられる季節。この季節になると私はよく生死について考える。冬はどの季節よりもひとりひとりが地に立って生きているような気がする。一人一人というよりは、独り独りという感じだし、生きているというよりは、みんな必死に生き延びているという感じで。人々が生に全うしていて、ひとの帯びる熱と生命力を感じるこの季節が好き。
空気の冷たさの中に在る孤独が好きだし、その冷たさの中で感じるあたたかさが好き。人の体温とか、自販機のコーンポタージュとか、コンビニの肉まんとか。寒さがあるから温もりが分かるし、つめたさがあるからやさしさが分かる。
冬は透明。空気は乾いていて、まるでプラスチックのコップみたい。唯一冬が見えるのは隣で君が息を吐いたとき。その瞬間、冬は白色になって私の視界を遮る。そのまま君が何処かに消えてしまうような気がして、咄嗟に私は君の手を掴む。あたたかい手のひら。君の体温。手を繋ぐと、お互いの熱が相まってふたりの体温がお揃いになる。そう教えてくれたのは君だった。口下手な君が突然ロマンチックなことを言うから不覚にも少しだけきゅんとしたことを覚えている。それを君に伝えたらどこにときめいてんのって言われちゃいそうだからずっと内緒にしているけれど。

私が冬を好きでいるいちばんの理由は、寒さが君に触れる口実になることだよ。人には、独りで冬を越して春まで生き延びてゆけるつよさがある。だけど、赦されるのなら、持ち合わせているはずのつよさは隠して、君とふたりで弱いフリして体温をお揃いにして、冬の間は身を寄せ合っていたいよ。君の手が冷たい時は私があたためてあげるから、私の手が冷たい時は君の熱であたためてほしい。そうしてふたりで冬を越したい、春を迎えたい、また桜並木を一緒に歩きたい。互いの手を握ったまま、お揃いの体温のまま。

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