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UFO

流星群の中で 隣り合わせになる。

出会いって そんなもんなんじゃないか。

苦手な数学の授業を ラジオ代わりに 漠然と 空に浮かべた。

数式では 解き明かせないことばかりだから。

答えは 自分で出したい。

そう思うから 数字ばかりの この時間は 苦手だ。

「この数値を 先程の数式に代入すると…」

公式に 当てはまるなら それに越したことはない。

だが 大抵の物事は イレギュラーだらけだったりする。

そりゃあそうだ。

感情ほど ライブ感があり 変化するものを 俺は 知らない。

絶望的な顔をしてたかと思えば 数秒後には 弾ける希望に満ちた顔をしている時だってある。

その逆も然りだ。

だが 隣に居る コイツだけは 常に どこに感情があるのか 分からない。

無表情だから。

無機質で 抑揚のない声色は まるで インプットされたかのようで。

プログラミングされたかのように 同じ時間に 同じ行動をするんだ。

苦手な数学の授業が終わることを コイツがシャーペンと消しゴムを片付ける動作で 知ることが多い。

「あぁ〜 終わったぁ~!!」

「授業終了まで 時間があります…騒ぐのは 早いですよ 上原くん?」

「いつも 先告知 ありがとよ 篠宮!」

「それは 感謝されるべきことなのでしょうか…」

「興味の無い時間から 開放されるんだぜ…助かるに決まってるじゃねぇか!」

「私より 前を見た方がいいような気がします。」

そこには カンカンに怒った 数学教師が 拳を震わせて 何かを言いたげに 佇んでいた。

「上原…どうすればいいか お前は 知っているな?」

今はまだ 噴火していない地脈から マグマが吹き溢れる音が 聞こえた。

〜放課後 上原編〜

「ったく…上原 お前というやつは…」

呆れ顔の数学教師 佐々木は 諦めたように 叱責を始めた。

「文系や技術系の成績は良いのに…何故 数学や理科には そこまで 身が入らんのだ?」

もう 説明するのも 馬鹿らしい。

(興味を持てないものに割いてる時間ないんだよなぁ~。)

1人で 上原の未来を危惧している佐々木を 華麗にスルーする。

「佐々木先生…申し訳ないんですけど もういいですかね?」

大方 言い尽くしたのだろう。

佐々木は 放つ言葉を探して 彷徨うように 迷っているようだった。

「興味を持てないのは 悲しいことだぞ 上原?」

「そうかもしれませんね…ただ 持てないものは持てない…嘘はつけませんよ 自分の心に。」

「…行きなさい。」

「先生方も 仕事でしょうし 心配をしてくれる気持ちは ありがたいと思っています…しかし やはり 違和感があることには 変わりありません。」

そう残して 職員室の扉を閉める。

「本屋でも 寄って帰るか…最近 新刊のチェックもしてなかったしな…」

夕暮れの道には 柔らかくなった陽射しが コンクリートを熱していた。

〜放課後 篠宮編〜

あれは いつだったかな。

元々 引っ込み思案で 素直になれない自分が コンプレックスだった。

だから 小さな頃から 今に至るまで 誰かと感情や思い出を残すのが 苦手だ。

フィルムの中心にいるのは 彼等であって 私は かろうじて 隅っこにでも 写っていれば 及第点だった。

もちろん 幼稚園や小学校低学年の頃は みんな 私に 話し掛けてくれた。

でも この性格が仇になって コミュニケーションを取ることが出来なかった。

答えられずにいると 何時の間にか みんなは 居なくなっていたから。

見捨てられたようで。

孤独の中で 嘆いて。

ただの引っ込み思案は 歪みを伴って 所謂 拗らせに 変化してしまった。

閉ざされた重厚なドアには 南京錠が 掛けられて 開ける為の鍵は 私が握っている。

おそらく 誰にも こじ開けられることなんて 有り得ないとさえ考えていた。

でも。

高校に進学した今年の春。

隣の席に 座った人物によって ガチガチに固まって 錆びついていたドアは 開かれることになる。

「また 怒られるのが分かってて それでも 過ちを繰り返す…見ていられないのに…なんでか 気になってしまう。」

篠宮が 上原に対する想いの解答を知るまでに刻まれる秒針の回数は そう遠くはない。

〜今春 入学式 上原編〜

(ここが 母さんが 卒業した学校…)

俺は 今は 訳あって 離れて暮らす 母親の母校に通う決意をした。

小さな頃から 絵本を読んでくれた。

物心が付いた頃には 母親の本棚にある書籍を わけもわからないまま 読み漁っていた。

言葉の意味や情景なんてものなど 知らないクセに 読むことだけは いっちょ前だった。

ただ そんな姿を母親は いつも 嬉しそうに見ててくれた。

別に 直接 褒められたわけじゃない。

でも あの笑顔を見てると 俺は 認められているような感覚に陥って その感覚が 何よりも 好きだった。

今でも 2週間に1度くらいのペースで 俺の様子を窺いに来てくれる。

1年くらい前の今頃。

進学の話をするタイミングがあった。

その時に 母親から聞かされたエピソードが 俺が 母親の母校を志望した理由。

「そういえば 母さんは 高校に進学する時に 理由とかあったの?」

「何にもなかったけど…そこで 母さんの価値観が 大きく変わる出会いがあったのよ。」

「そうなんだ。」

「母さんね…もともとは 読書になんて縁もゆかりも無い学生だったのよ…担任の先生が 図書室の管理をしている先生でね…ある時 国語の授業内容で 分からない箇所があったから 質問に行ったのよ。」

そう。

あれは 入学してから しばらくした 初夏の日だった。

「失礼します…」

閑静な雰囲気に気圧されて ついつい 声が小さくなってしまった。

なにやら 書物を真剣に見つめていた先生は こちらに気付くことはなかった。

あまりにも 真剣に見ているものだから なんだか 話しかけるのが憚られた。

それでも 疑問を持ち帰るつもりもなかった。

「先生!」

その両肩は 弾むように 跳ねた。

「おう…なんだ 空下(そらした)か いたのか。」

空下とは 母方の名字だ。

「全然 知らないフリなんですね?」

「いやぁ…この本に 最近 心酔していてね…読むと 周りの音が 鳴り止んでしまうんだ。」

恥ずかしそうに微笑む先生は 申し訳なさそうで でも 楽しそうだった。

「私 本って しっかり読んだことがありません。」

「そうなのか?…面白いぞ 自分以外の誰かから見た視点や目線は 世界の拡がりを教えてくれる。」

「…?…そういうもんなんですね…」

サッパリ理解が 追い付かなかったけど 先生の陶酔している様子を見ていると それほどまでに 惹きつける何かが 本の世界には 存在するのかもしれないと思った。

「空下…そういえば 何用だったんだ?」

「そうだ…先生に聞きたい箇所があって…」

そして そこで 先生が教えてくれた 文章の解釈の仕方や 目線が 面白くて 話し終える頃には すっかり 空が闇を落としていた。

「私 国語とか文章が あまり得意じゃなかったですけど 先生の解釈の仕方が 面白いから 全然 飽きなくて むしろ 面白いと思いました!」

「それは良かったよ…ほら…まずは この本を読んでみるといい。」

その本は 本棚の1番奥。

初めて 自分で買った 大切な本。

今でも たまに開いてしまうのは あなたが 隣で 笑うことは無いから。

「まさか…その先生って…」

「そうよ…あなたのお父さん…私の人生に彩りを与えてくれた人。」

昔 お正月に 親戚一同で 集まった時。

お酒を飲んで 饒舌になった母親が 口を滑らせたことがあった。

「私が 好きになって…それで…」

俺も 初めて知った。

確かに 亡くなった父親と母親は10歳ほど 年が離れている。

詳しい内容を聞く機会が無かっただけで 違和感の無い 仲良しな印象しか 俺にはなかったんだ。

これは 遺伝子でもあり 母親が愛した 父親への愛のカタチなのかもしれないと 推察した。

「そういえば 旬輔(しゅんすけ)は 小さい頃から
国語が好きだったよね。」

これまでの時間を遡り 想いを馳せるように 母さんは 笑った。

「母さん…その本 俺も読んでみたい!」

ゆっくりと自室に戻って 本棚の奥から ブックカバーが被された本が 目の前の長机に 置かれた。

『U.F.O』

その本のタイトル自体が 未確認生物のように 俺は 感じた。

〜今春 初ホームルーム 篠宮編〜

学校というコミュニティーが嫌いなわけじゃない。

ただ 対人関係になると 自分に自信が持てず 意見を言えなくなってしまう。

自然淘汰されただけなんだと 自解している。

友達というモノに興味はある。

それでも 無理をして 付き合っていたら 幼い頃の自分に戻って 疲弊するだけなのも 知っている。

いつの間にか 私は 本の虫になっていた。

流行りには疎い。

でも 先人達が遺した想いや願いは 自分なりに 解釈しているつもりだ。

(場所が変われば…)

期待を捨て去ることなんて 出来ないのも 人のジレンマ。

鞄を机の端に付属されたフックに引っ掛ける。

筆箱と1時限目の授業で使うであろう一式を 机上に まとめて置く。

何も変わらないはずだった。

これまで通り。

時間を把握しながら 授業を受けて 終了間際の2分前には 左手首の時計で ズレが生じていないかをチェックする。

クセというより習慣みたいなものだ。

「あのさ…篠宮だっけ?…今 何時?」

あまりに気さくに話しかけてくる隣人に 驚いて フリーズしてしまう。

声が出ない。

誰かと喋るということ自体を忘れていた心身の反応は 正直過ぎる。

「…?…あのぉ~篠宮さん?」

正反対の感情豊かな表現が 私を急かす。

「あ…あ…は…8時50分…です…」

それを聞いた隣人は なにやら 焦りを帯びている。

「間に合うかな…腹痛くてさ…わりぃ 篠宮…先生に言っといてくんない?」

どうして 私が 他人の体調を報告しなければいけないのか 理解出来ないまま 彼は トイレに駆け込んでしまった。

案の定 彼のトイレは長くて 1時限目の数学を迎えてしまった。

登校初日の初授業で 他人の体調を伝える人生を 誰が予想出来るものか。

当の本人は シレッとした態度で 教室のドアを開けて『お腹痛くて…』と 申し訳なさそうに 数学教師の佐々木先生に 頭を下げていた。

『登校初日から良い根性をしているな上原!』と ドヤされて クラスが盛り上がっていた風景で この隣人が 上原という名前だと知る。

私とは まさしく正反対の人種なのだと痛感した。

盛り上がるクラスの窓の外には 桜の花びらが 自由に舞っていた。

その姿は 彼 上原と類似していると 私は感じていた。

〜Two month later〜

「…ら…はら…上原!」

聞き飽きた目覚まし時計が 不快な目覚めを促す。

「う…う〜ん。」

見慣れた彼の叱責姿を横目で見ながら 期末テストに出そうな文面に マーカーを引っ張る。

「放課後 職員室だ!…聞いておるのか 上原!」

乾いたクラスの雰囲気も すっかり板に付いてきた。

(上原くん…理数系の授業 必ず 寝てるのよね…)

数ヶ月の分析結果を内心で 呟いて 放置する。

「またっすか?!…何度 怒られても 変わんないっすよ…分かりましたよぉ~…」

根負けするまでが バリューセットだった。

「上原くん…そんなにつまらないのですか?」

思わず 質問してしまった。

「あ…あぁ…俺の人生で 理数系って それほど使わない確信があってさ…まぁ 学生なんだからって言われたら それまでなんだけどな。」

「そうですか…極端ですね」

「篠宮…その蔑むような眼差しで質問するのキツイぞ?」

「事実なので 仕方ありません。」

「お前さ…友達いねぇだろ?」

核心を突かれると それを怒りで誤魔化そうとする。

「い…居ますよ 失礼な!」

声を荒げる篠宮に 上原は 驚愕しながら 後退る。

冗談だったのに。

「ごめんって!…何も そんなにキレなくてもいいじゃねぇか…」

「…取り乱しました すみません。」

上原は 先程の篠宮の反応から 自分が 芯を突いてしまったことを悟った。

(あぁ…これ たぶん マジのやつだったな…)

「けどよ…篠宮って 不自由なく話せる感じするけどな。」

篠宮は 心臓が喉を越えそうになる。

(え…俺 そんなに恥ずかしいこと言ったかぁ?)

「う…上原くんのコミュニケーション能力が高いだけの間違いじゃないですか?」

顔が紅潮している自覚が それ以上の紅さを与える。

(そんなこと…初めて言われたから…恥ずかしい…)

嬉しさよりも 恥ずかしさが数値を振り切ると 真逆の反応になることを 理数系の必要優先度の低い上原が 理解するのは 中々に厳しいのだろう。

「なんかごめんな篠宮…でもよ…俺は 篠宮のこと 友達だって 思ってるぜ?」

当たりざわりのない なんてことのない一言が 篠宮にとっては 途轍もなく 高水準なことも 上原は 知らない。

フリーズした。

臨界点だ。

システムが気障をきたした。

突然 固まってしまった篠宮の肩を揺らす上原。

しばらくして 篠宮は 保健室に運ばれた。

思えば この時から 上原と篠宮は お互いの存在を 気になる存在として認識していた。

〜放課後 保健室〜

「上原くんが 血相変えて 篠宮さんを運んで来た時は びっくりしたわよ。」

安堵の表情を浮かべているのは 河上先生だ。

まだ 今年の春から赴任したばかりの河上先生は 生徒から『ルカ先』と 呼ばれる 癒しキャラだ。

「あまり…覚えていなくて…目が覚めたら ベッドの上で…」

人は 思い掛けない出来事があると 動揺を超えて 思考停止してしまう。

それは 私だけなのかもしれないけど。

諦めていた。

このまま。

期待だけを秘めて 高校生活が 流れていくばかりだと。

その最中に起きた 目の前の映像を信じることが出来なかった。

「上原くんに聞いても 原因 分からないし…思い当たることとかある?」

艷やかな黒髪をなびかせながら 上目遣いで 河上先生に 尋ねられる。

綺麗。

これは みんなに愛されるわけだと 篠宮は 直感する。

「…あ…あります…」

それから すっかり 黙り込んでしまった 私を察すると 河上先生は 何事も無かったように 机に向き直った。

「篠宮さん…昔の私に似てる。」

クスクスと笑いながら 何かを書いている。

「似ているんですか?」

ペンを走らせる横顔。

「たぶんだけど…きっとよ?…あなたに今 恋が芽生えてる。」

貫かれたことは無いけれど。

心臓が 過度に 反応した。

「どうして…」

初めは 迷惑をかけることを何とも思わない 迷惑なお隣さん。

毎朝 挨拶を交わして 同じ時間を共有していくと 印象は 変わっていて。

断片的な行動や発言だけをピックアップしてしまえば きっと ワガママな子供みたいで。

それでも 私は知っている。

時折見せる 熱い表情を。

そして そこに魂を捧げているようで。

彼は 明確な何かになりたいわけじゃないんだろう。

彼は『彼自身』を 極めようとしているだけなんだと思う。

それは 自らを閉ざし 限られた空間と範囲内で 努力をしている自分と どこか共鳴する部分があって。

「でも…先生とは 似ていない気が…」

「だから言ったでしょ?…『昔の私』に似ているって?」

「先生も…あまり 人と接するのが…?」

無言の頷き。

「私もね…高校に入学して しばらくしてからだけど 変わるきっかけがあったの。」

あれは 夏休みに入る前だったかな。

私には 幼馴染がいてね。

その子は 男の子だったけど 男女どちらとも 仲良くしてて。

いつも それに憧れるように 羨むように 遠くから 見てるだけだった。

夏休みに みんなで 海に出掛けようって 話になってね。

彼に 悪気は無かったのかもしれないけど 自然に 私のことも誘ったの。

私からしたら 大惨事よ。

有り得ないことだったから。

当時の私からしたらね?

全力で 断わろうとした。

そしたら。

「俺 本当は ルカが前向きになってほしいって ずっと 思っててさ。」

そんなこと 初めて知ったの。

「これからは ルカと たくさん 想い出 作っていきたいんだ!…だから…その…一緒にいてくれよ…」

いつも遠くて。

帰り道が一緒で その時くらいしか話してないのに。

彼は いつも 私のことを気にかけてくれてた。

しかも ずっと 私のことなんかを好きでいてくれたの。

本当は 近かった。

踏み出す勇気が無くて いつも 立ち止まって。

考えてみれば どんな時でも どんな選択をしても彼は 認めてくれて 応援してくれてた。

「私でいいの?」

「俺は…ルカじゃないと…イヤなんだ。」

目を逸らしながら。

髪を掻きながら。

「その時に 私の中で 弾けた音がしたの。」

(同じだ…)

ルカ先から 同じ香りがした。

「もしかしたら 篠宮さんにとっての『彼』は 上原くんなのかもしれないって…お姉さんのお節介ね。」

また クスクス笑っている。

恥ずかしくも 心地良い空間が 確かに ここにある。

枝葉を濡らす 微かな雨音が 篠宮の心に刻まれた想いのように 少しずつ 浸透していった。

〜上原 放課後 教室〜

篠宮が 倒れた。

話している途中に 突然。

慌てて 保健室に 駆け込んだ。

「ルカ先!…篠宮が…!」

テキパキと対応してくれるルカ先。

「うん…大したことはなさそうね…しばらく安静にすれば 大丈夫!」

安心した。

「上原くんは 教室に戻って。」

可憐な笑顔で 言われたら お任せするしかない。

「お願いします。」

後ろ髪を引かれながら 戻ることしか出来なかった。

(俺 何かしたか…?)

納得出来ないまま 時間だけが過ぎて もう教室には 自分以外居ない。

心配で たまらなかった。

(篠宮って 何か ほっておけないんだよな…)

いつも 独りで。

壁を作りがちで。

話したり 接してみると 分かる。

確かに イジワルな所もあるけど。

基本的には 優しいことに。

無愛想な表情だったり 抑揚の少ない喋り方が 隠してしまっているだけで。

他人を考慮している。

だってそうだろ?

同じクラスに 違う人間が 集まっているのに。

ぶつからないんだ。

それは 上手く 篠宮が 躱したり 流したり もしかしたら 我慢しているから 不満不平が 出てこないんだ。

「あれ…?…俺 何で こんな熱くなってんだ…?」

雨音に交じって 聴こえにくいはずの蝉の鳴き声が 妙に 耳について 離れなかった。

〜Cross road〜

爪先を軽く床に叩いて 靴を整える。

奥から 踵を鳴らす音がした。

「…あ。」

用意なんて させてはくれない。

神様は 視線が絡まるまでの猶予を許さない。

蝉の鳴き声。

降り頻る雨。

傘を開いて 歩き始めるだけだった数秒後が。

変わった。

代わりのきかない時間へ。

「篠宮…平気か?」

ここまでくれば 偶然ではない。

「…心配させて ごめん 上原くん。」

ここまで想えば 必然でしかない。

「俺さ…篠宮が倒れてから 今まで ずっと 篠宮のこと考えてた。」

願いは 願うだけでは 成就しないとは 知りながらも。

「…私も。」

未開拓の新地へ踏み込むことを躊躇してしまったりする。

「俺さ…篠宮が 好きなんだって 冷静に思った。」

それでも 踏み込んでしまえば それから先は 案外 サッパリしたものなのかもしれない。

「初めて話し掛けてくれた時 本当は 言葉に出来ないくらい嬉しかったの。」

そして そこで出会った あらゆる出来事を丁寧に 心に納めさえすれば。

「篠宮と話すの なんか心地良くてさ。」

繋がりを遮断するのは 諦めればいいだけなのだから 簡単なんだろう。

「たまに 理解出来ないこともあるけど 理由があることだけは 見てれば 分かるよ。」

互いが 心の中心ではなくても 片隅でもいい。

「そっか…だからかもな。」

存在する限り。

「隣に居てほしいって 思っちまうのは。」

出会いなんて 未確認飛行物体と なんら変わらない。

他の誰でもない自分にだけ 伝わる地震みたいなもんで。

いつしか 共振して 同じ周波数が 同じリズムを刻んで。

お互いが願い 維持していくと 決心してしまえば その共振は 半永久的に 継続していく。

「篠宮…本 好きだったよな…これ。」

歴史の教科書に掲載されることはなくても。

「これって…」

今日という人生の1ページに 2人が居て 同じようで 違うことが 書いてあるだけ。

飛来して 中々に 手放せない。

「俺も 本が好きでさ…」

厚さも。

ページ数も。

文字数も。

全てが違うのに どこかが。



※この作品は『春野』さんの『U.F.O』という楽曲から インスピレーションを受けて 製作しました。
風情のある エモい楽曲です!
みなさんも是非 聴いてみてください。
全ての物事は 突然 訪れるUFOみたいなものかもしれませんね笑
じゃあ まったねぇ~!

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