セシボンといわせて (ミサ/名字を持つ野良猫)
〈ミサ/名字を持つ野良猫〉
家猫ではない野良猫は大概便宜的につけられた名前で呼ばれるのが多いんじゃなかろうか。まして名字など無いのが殆どだろう。
彼女は『自分固有の名字』がある珍しい野良猫のうちの一匹(ひとり)だ。 ――――実の所、こちらの無知から名字もついてしまっただけなのだが。
黒毛の子猫が二匹、いつものように庭で遊んでいるところに、その猫は突然現れた。
濃い茶色と黒の混ざり具合が混沌としている体の色にも迫力があるが、何より顔が怖かった。その毛色は顔面でさらにキツく見せるような色合いで混ざり合っており、視覚的に威嚇されている気持ちにさせた。
てっきりオスだと思った。体つきは目の前の子猫たちより俄然大きかったし、いかつい顔と、その見た目だけで勝手に判断したのだ。
とても強そうなオス猫に見えた。〝金剛さん〟と名前をつけた。
金剛さんは人に対して甘え声を出した。スリスリするし、撫でて欲しがるし、自ら膝にも乗ってきた。
さわれる猫に飢えていた私たちは、ついつい金剛さんを可愛がった。〝金剛さん〟はなかなか良いネーミングだったようで、彼女を見た人はすぐに名前ごと覚えてくれた。
やがて母がサビ猫はメスなのだと聞いてきた。
本人は自分が人から見ると怖がられる顔だとは知らないし、毛色も自ら望んだものではなく、中身は甘えん坊の女の子だった。それで〝金剛〟は名字にして、下の名前に昔好きだったアニメのキャラクターの名前をつけて『金剛ミサ』と呼ぶことにした。
ミサは勝手に家の中に入り込む図々しさがある。洗濯物を干す時などに窓を開けているといつのまにか入り込んでいる。
その頃は部屋に座椅子があったので、そこへ座って眠りたがった。
ある大雨の晩。にゃあにゃあ鳴いて、入れてくれと呼ぶ。どうにも気の毒になり、つい家にあげたのが二回ほどある。一度目は嗅ぎ回った上、食卓の下で眠った。二度目は座椅子で眠った。お腹を出して安心しきって、何時間も眠り、起こすのも可哀相なくらいで、でもこちらも布団で眠りたい時間だし、ほとほと弱った。
捕まえて避妊の為に病院へ連れて行くと、手術痕がある、という電話が入った。 飼い猫だったのが確定した。先生は桜カットをしてくれた。
考えないわけではなかったが、それでも私たちはミサと暮らす選択肢を取らなかった。
まず、夫が首を横に振った。理由はミサの臭いだった。いわゆる獣臭とでもいうのか、 これが酷い。部屋の中でマーキングしようとして私たちを慌てさせたし、何より咬むのが 困りものだった。
膝から下ろす時や、撫でている時にいきなり咬まれる。母は二度くらい手をパンパンに腫らせて病院に通った。触る際には分厚い皮の手袋が必須だった。
ミサは、相手が子猫だろうと全く容赦なく襲いかかった。庭にちょくちょく顔を出すので私たちが相手をするようになると、二匹の子猫を蹴散らし始めた。そのうち黒猫たちをほぼほぼ追い出してしまった。予想外だった。こんなことになるとは思ってもいなかった。
毎朝、あの古い犬小屋から二匹で顔を出し、黄色いお目々を四つ並べてこちらを見つめていたのに。
もっとちゃんと平等に接していたら子猫たちを追い出さずにすんだのだろうか。
しかし〝ミミコ〟が現れて、春を迎える前にはミサもこの庭を追われてしまった。
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黒猫セシボンとの日々のまとめです。目次がありますので、お好きな日を選んで読んでいただけます🐈⬛🐈⬛🐈⬛
☆☆☆見出し画像はみんなのフォトギャラリーより、にきもとと様の作品『短い秋』を拝借しております。いつもありがとうございます☺️🐈⬛😊☆☆☆☆☆
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