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THINK_91/ゲスト:大治将典さん_Oji & Design 代表 ,手工業デザイナー(2018年7月27日)

今回は,2018年7月27日(金)に開催された91回目のTHINKをアーカイブからダイジェストでおさらいします.

ーー定期購読マガジン THINK BOOK について
THINK BOOK は,読む "THINK" です.Suppose Design Office の谷尻誠が毎月魅力的なゲストを招き「"考える"ことを考える場所」として開催しているイベント"THINK"を読み物として再構成してまとめています. 多彩なゲストとの間で繰り広げられる本音のトークはここでしか聞けないヒントがたくさん詰まっています.過去100回以上に及ぶ記録資料などの掘り起こしを含め,月に2回程度,定期購読マガジンとして掲載していくので,よろしければ定期購読していただいて,皆さんの日常をTHINK するきっかけになれば幸いです.(谷尻誠,西尾通哲:共同編集)

ーー当時の告知資料より
月や太陽、星にみたてた巧緻な真鍮の鍋敷き。料理がひきたつ、シンプルながらにどこか愛らしいお皿。そして美しいと表現したくなる華奢な匙。それらを見るかぎりでは、作者は柔らかい女性を勝手に想像してしまうのは、固定概念にとらわれ過ぎでしょうか。
第 91 回目となるTHINKのゲストは、メディアで拝見する大柄な出立ちと、豪快な笑顔からは想像しがたい(?)ほど、繊細で生活に溶け込む数々のプロダクトを作り活躍されている広島市江波出身、Oji & Design 代表・手工業デザイナーの大治将典さんです。
大学で建築を学び、卒業後も建築設計事務所で働いていたという経歴をもつ大治さん。しかし、俯瞰図的なプランニングなどに馴染めず、直ぐに退職。地元広島へ戻り、グラフィックデザイン事務所を立ち上げつつ、ノートなどのモノを作り販売までしていたそう。知識は無いながらに、建築やグラフィックよりも、これくらいのサイズのモノが自分にはしっくりくると感じ、プロダクトデザインの道へ。これまでに富山高岡の創業120年以上の老舗鋳物メーカー「FUTAGAMI」、岡山の「倉敷帆布」、佐賀有田の有田焼「JICON 磁今」など、日本を代表する手工業メーカーのデザイン、ディレクションを手掛けられています。また現在では、作り手と伝え手と使い手の三方をつなぐ展示会やワークショップ、勉強会などを行う「ててて見本市」を年に1度東京で主催されており、人と人とが出会う場づくり、そして、人とモノとがつながる空間づくりも行われています。
意外なのは、デザインを依頼されゼロからつくるとき、その商品からではなく、その商品につけるカードからデザインをスタートされるということ。それはただのカードではなく、お客様が手に取るメーカーからの「お手紙」なのだそう。それがあることで、デザインの方向性がブレたときに、メーカーと共に最初に立ち戻ることができる、そういう意味でも大切な「はじまり」なのだとか。また、大治さんは埼玉県川越市に拠点を置き、日々庭仕事をしながら丁寧に生活されています。大治さんのインスタグラムに時折アップされるお子さんのお写真からは、ご家族への愛をひしひしと感じます。この方のつくるプロダクトだから、それを持つ手や置かれる場所にしっくりとくるのではないでしょうか。
大治さんがそんな普段の生活や自然からいかされているものは何なのでしょうか?そして、モノづくりだけでなくコミュニケーションもデザインしてしまうエネルギー溢れる大治さんのもつTHINKとは?皆さんのご来場を心よりお待ちしています。

THINK_91
日時 2018年7 月 27 日(金)
開場 19:00~
開演 19:30~21:30
会場 広島市中区舟入本町 15-1
サポーズデザインオフィス 3 階

Guest 大治 将典 (Oji Masanori)
Oji & Design 代表/手工業デザイナー
1974 年広島県生まれ。1997年広島工業大学環境学部環境デザイン学科卒業。建築設計事務所、グラフィ ック事務所を経て、「Oji & Design」設立。日本の様々な手工業品のデザインをし、それら製品群のブランディングや付随するグラフィック等も統合的に手がける。手工業品の生い立ちを踏まえ、行く末を見据えながらデザインをしている。2012 年から「つなぐ・つむぐ」という関係性の構築を目指す作り手のための展示会「ててて見本市」共同主催。2015 年高岡クラフトコンペティション審査員、2016 年から同審査委員長。
Oji design http://www.o-ji.jp/
instagram @oji_masanori  
ててて見本市 http://tetete.jp/

同郷のライバル

実は,大治さんと谷尻さんは同い年.そして,同じ時期に広島という街でデザインの活動を始め,お互い意識し合う間柄だった.二人が独立したのも偶然同じ年.大治さんが仲間とグラフィックデザイナーとして活動を始めたころ,谷尻さんは同じころ仲間と建築設計事務所を立ち上げたわけだ.お互い最初は人のうわさで存在を知り,気になりながら過ごしていたそう.その後,必然的に出会い,お互いよきライバルとして分野は違いながらもそれぞれに自分たちの仕事を通して広く知られるようになり,国内外で話題になるデザイナー,建築家として現在に至っている.トークは,時折昔話に花を咲かせながらも,モノづくりのスタンス,仕事への向き合い方に膨らんでいった.

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谷尻誠さん(以下,谷尻)「オージ(お互い,オージ,マコっちゃんと呼び合う仲)と合うのは久しぶりなんですよね.お互い噂は聞いてる間柄という感じですけど.今はどんなことをやっているの?」

大治将典さん(以下,大治)「毎週のように地方の社長さんに会いに行って,お酒飲んで,悩みを聞いて,それを持ち帰って次の週にアイデアを見せに行く,みたいなことをやっていますね」

話は谷尻さんと大治さんの学生時代の回想から始まる.

作ったものの...どうやって売るんだっけ?

大治さんは,大学で建築設計を学んだものの,就職先で断面詳細図や鳥瞰図など,複雑な図面を分からないまま描かされている状態に違和感を感じ,3ケ月で仕事を辞める.そして,広島に帰り,幼馴染でグラフィックデザイナーとして会社に勤めていた友人を誘い,自分たちでデザイン事務所を立ち上げることを決意.時代は就職氷河期で,つまらない仕事に就くくらいなら自分でやったほうがまし,と開き直れたという.他に数名の仲間を加え,グラフィックデザインをはじめ,自分たちが使いたいものをデザインし,自分たちで工場に発注し製品を作る当時の独立したデザイン事務所であればだれもが経験するような過程を踏んでいる.しかし...

大治「メモ帳を作ったんだけど,売り方を知らなかったわけ(笑).それで,たまたま街で出会った,雑貨屋で仕事をしていた友人に営業を手伝ってもらったり,その友人のところに付き合いがあった東京のスタイリストさんの目に留まるように働きかけたりすることで,ラッキーにも雑誌などに取り上げてもらって,部屋中を占領していた在庫のメモ帳が全部売れたんです」

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その時に,プロダクトは面白い,と実感し,程なく自分が立ち上げたデザイン事務所を友人に任せて,プロダクトデザインにのめり込む.建築学生時代に,コンペを獲ってステップアップしていくという成長へのプロセスを知っていたため,プロダクトのコンペにたくさん応募し,コクヨ・デザインアワードで2年連続受賞,ダイソンのデザインアワードでも受賞するなど,たちまち界隈では注目されるデザイナーとして頭角を現す.

大治「でも,プロダクトのコンペで1等を獲っても,商品にならないことが分かって.だいたいコンペは有名なデザイナーが審査員をして,それで選んでくれるんだけど,商品化するかどうかはそのメーカーの判断だから,優れているものでも自分たちの利益が見込める商品でないと本気で動かない

コンペで少しだけ名が知れただろうとタカをくくって上京したものの,なかなかうまくいかない時期もあったのだそう.もがきつつ色々な人のお陰で縁がつながって,素晴らしい技術を持ちながら様々な問題を抱えている地域産業に出会うことになる.

プロダクトデザイナーから地域のモノづくりを見直すデザイナーへ

谷尻「なぜ,プロダクトから地域産業に意識が向いたんだろう?」

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2020年1月で109回を迎えたTHINK。 これまでのアーカイブを読むTHINKとして届けていきます。 活躍する方の思考の共通項と差異を客観的視点から考察します。

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