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マスクの取れない女の子

30分という制限で虚構と現実の入り混じった物語を書いてみようと思います。きっと誰にでも起こり得る、ありふれた物語です。

☆ ☆ ☆

昔、マスクをずっと付けている女の子のことが好きだった。彼女がマスクを付けているのは、風邪を引いているからではない。自分の顔を出来るだけ隠しておきたいという、自己肯定感の低さに起因するものであった。僕は、そんな部分も含めて、彼女を理解してあげたいと思っていた。

彼女の自己肯定感が、酷く低い夜があった。

私は何も出来ないし、何も知らない。
いつかマスクを外して、社会に出ないといけない日だって来る。
このままで良いわけない。でも変われない。

僕は、そんな彼女に対して、自分が紡ぎだせる精一杯の言葉をかけた。

少しづつ変わっていこうよ。
君なら大丈夫。ゆっくりで良いと思うよ。
一緒に頑張ろうよ。

結局、この恋は実らなかった。僕の想いは伝わらなかった。
そして、彼女とは少しずつ疎遠になってしまった。

今振り返ってみると、彼女が本当に必要としていたものは、「変わることへの後押し」ではなく「変わらないことの肯定」だったのかもしれない。彼女にしてあげるべきは「マスクを剥ぎ取ること」ではなく、「マスクを付けたままでも暮らしやすいようにしてあげること」だったのだ。

あの頃の僕は、彼女を必死に変えてあげようとしていた。それこそが正義だと思った。
でも、マスクを付けたままだって良い。性格だって変えなくて良い。

そんな無条件の肯定をしてあげれば良かった。

小さな後悔を幾つも抱え、僕たちは生きていかなければならないのだろう。

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