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はじめての一人移動

海外まで一人で向かう、海外で一人で行動する、という経験を初めてしたのは、ちょうど20歳の時だった。

それはヨーロッパへ向かうまでの旅路だった。ヨーロッパ周遊という、いかにも楽しそうな名前のツアーに参加するためであった。

各国から集まったメンバーで、現地集合・現地解散でツアーに参加するというもの。さすがに一人で国境を越え、各国を旅して歩く勇気はなかったので、ネットで見つけたツアーに参加しようと考えたのだった。(このツアーについては、後々書き留める予定。)

あえて一人旅と言わないのは、一人で旅行がしたかった訳ではないからである。英語もまともに喋れず、人見知りしがちな自分にとっては友人と参加したい気持ちが山々だったが、3週間弱の短くもないスケジュールを共にする相棒を見つけるのは容易ではなく、一人で行くと決めて実行するほか、海外に行きたいという気持ちを抑えられるものはなかった。

日本は真夏の8月だった。

大きいスーツケースに3週間分の荷物を詰め、早朝に乗合バンで空港へ向かう。海外まで一人辿り着くというのはこの時が初めてで、まだ薄暗い家を出た瞬間から気持ちが引き締まる。バンの中からどんどん明るくなっていく明け方の空を眺め、わくわくと緊張が混ざった気持ちになる。

空港へ着いてからはカウンターで荷物を預け、自分の便を待つ。一人で居ると、寝過ごしたり荷物が盗られたりしない様、油断できない。と思ってしまう性分。まだ20歳そこそこで、大人の余裕のかけらも、もちろん皆無。

最初の目的地は、イギリス、ロンドン。フィンランドのヘルシンキ空港を経由して、ヒースロー空港を目指す。

緊張のせいか、機内でのことはあまり覚えていない。ヘルシンキで乗り換える必要があったので、上手く乗り換えられるか心配だったのだろう。

10時間程のフライトを終え、遂に乗り換えの地、ヘルシンキへ到着。当たり前だが、英語とフィンランド語らしき文字ばかりの空港で、早く乗り継がなければとカウンターらしき所の前で行列に加わる。一向に列が進まない。焦りも増して、大丈夫かな、間に合わないかな、これはやばいかも、、と焦っていると、館内放送が流れる。おそらく飛行機に乗り遅れそうな人の名前を呼んでいるのだろう。よくあるやつだ。

あれ?日本人の名前...訪れたこともなかった海外の地で、まさか自分の名前が呼ばれようとは。やってしまった、この列ではなかったようだ。自分の名前が何度も繰り返されるが、一向に進まない列の中ではどうすることも出来ず、諦めた。自分の拙い英語で分からない方向に走ったところで、乗り継ぎの便には乗れないだろうと、一瞬にして悟ってしまったのだ。

そこからは、ただただ列が進むのを待ち、自分でもよく分からない手続きを終える。今にして思えば、乗り継ぎの人は一般客とは別のカウンターでもあったのかもしれない。スムーズに進むような近道が、、。

カウンターでよく分からないまま手続きを終え、冷静に考える。これはどこかの窓口で乗り損なったことを伝えなければならない。高い位置に掲げられている英語の案内看板を何とか頼りに、どこかの窓口に辿り着く。そこには、フィンランド人らしき中年の女性職員が2人いた。

「エックスキューズミー?アイミストゥマイフライト、ワットシュドゥアイドゥー?」

咄嗟に思い浮かんだグダグダの英語で尋ねる。少し困った顔でフライトチケットを見せて、という様なジェスチャーをされる。自分のチケットを手渡すと、女性職員は同僚と談笑しながら、カチカチとパソコンに向かってキーボードを打つ。

イギリスまでは一人での移動だったが、到着後は現地に留学している友人と落ち合う約束をしていたため、すぐに代わりの便に乗りたかった。

職員の方から、空席はあるけど早くても三時間後の便しかないよ、と言われる。自分の英語力でこれ以上交渉したり他に方法はないのか、と伝えたりする気力も自信もなかった。オッケーとたくさんのありがとうを伝え、代わりのチケットを受け取った。

言葉もよく分からない空港で三時間後の便を待つことになった。使える空港のWi-Fiを探し、待合ベンチに腰を下ろす。もともと短気な性格もあり、乗り損なった自分と友達を待たせてしまうこと、これから三時間も待たなければならない事実に、イライラが募る。

周りには何もないのに妙にスタイリッシュなフィンランドの空港ロビーで、イライラの表情を顔全面に出しながら、不貞腐れて携帯をいじる。友人に遅れてしまう連絡を入れ、謝る。日本を離れて約半日、初めての一人移動のハードさを早速実感する、20歳の夏の始まりだった。

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