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竹内真『図書室のキリギリス』

市立図書館のなかを、ふらふらと歩いていると、ふと目に止まった3冊。『図書室のバシラドール』『図書室のピーナッツ』『図書室のキリギリス』。中は見ずに、奥付の出版年だけ確認し、第1弾だと判断した『図書室のキリギリス』を手に取った。

仕事に行き、休憩時間。
どんな本かわくわくしながら1ページ目を開く。
導入部分で主人公との共通点を見つけて思わず笑みがこぼれる。
ああ、出会うべくして出会った本だなと納得。
気付けば1冊読み終えていた。

この本は、高校の学校図書館、いわゆる、図書室の司書さんになりたてほやほやのお話。4月から新社会人になった自分を重ねて、「働く」という行為への理解が変わったなと思う。より現実味を帯びる、というか。中学生のころ読めなかった『何者』を、後で読み返すとスラスラ読めるようになっていた、そんな感じ。
それでも、読み進めていくと、図書委員の生徒側に気持ちを重ねてしまうことも多々ある。私も高校生のころ、図書委員で、毎日毎日昼休みになるたびに図書室に入り浸っていた。そんな私は先生からどう映っていたのだろう。3年生の女の子が本を勧められて、「今週は模試だから、来週借りるね」と言ったような返事をする場面がある。自分を見ているかのようだった。

1つ前に読んだ中山七里の本もそうだが、現実に存在する書籍や曲がたくさん出てくる話が好きなのだと思う。本はある種違う世界の、自分ではない違う人の生活を追体験できる楽しさのようなものを感じるが、そこに自分が現実で知っているものが出てくると、よりリアリティが増すというか、近しい存在になれた気持ちになる。もう一歩、本の中で紹介されたその本を読んでみようという気になれればいいのだが。

仕事の休憩時間に、読書を通して別の仕事をしている気分になる、背徳感というのだろうか、後ろめたさがありつつも、学校図書館の司書さんになりたくて仕方がなくなった。
いま思うと、どうして司書さんになろうと思わなかったのだろうと思うほどに、私のやりたかったことは司書さんにつながっていた。進路として考えたことが全くないわけではなかったが、本気でそのために勉強する方法まで調べたことはなかったし、雇用形態を知ってあっさり辞めた記憶もある。
なりたいな、と思うだけで、向いているかどうかはわからないし、「続ける」ことが苦手なので、きっと途中で投げ出したくなることもあるだろう。そういう意味ではいまの仕事は合っているので、簡単に手放すつもりはない。でも、ああ、私も誰かと好きな本について考えたい。できれば学校の図書室で。ずっと将来のことを考えられずに、これからどうなるんだろうなと思っていたけれど、選択肢はたくさんあるのかもなと思える小説だった。

昨日は、あと少し、あと少し読みたい!と粘って、23:00くらいまでページをめくっていた。最後の章だけ残して眠りにつき、目覚ましがなる前に目が覚めて本に飛びついた。早起きして本を読む朝も、お昼ごはんを食べて本を読む休憩時間も、お風呂上がりにベッドでゆったり本を読む至福の時間も、翌日のことを考えやめどきを探しながら本を読む夜も、全部全部私のお気に入りの時間だった。

図書館で借りた5冊のうち3冊目を読み終えたところだが、全部こんなに面白いなんて想定外で、読むスピードも加速しそう。あいにく、次の出勤までにしておかなければならない課題がたくさんあるので、次の1ページ目を開く前に、一旦現実の世界に戻ることにする。岬洋介シリーズも、岩井俊二の他の小説も、『図書室の』シリーズも読みたい。次に図書館に行くことが出来る日を心待ちにして。

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