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男の穴は男で埋めればいいのよ、なんて簡単に言わないでよね。

大失恋をした。

初恋で、初めての彼氏だった。だから失恋するのももちろん初めてだった。あなたがそっけなくなった日から私は失恋の準備を始めたけれど、結局あまり意味がなかった。ずっと分かり合えていたはずの私たちは、少しずつ分かり合えなくなっていた。最後に分かり合えたのは、あなたが私のことを好きじゃなくなったことだった。それ以外は、もう何もわからなくなっていた。
失恋は女を強くするなんて言葉があるけれど、失恋でしか手に入らない強さならいらないと思った。


あなたに振られてから、涙が枯れるという言葉は嘘だと知った。そして、泣きすぎると喉が渇くことも知った。友達の家に、水を持って押しかけては断ち切れないあなたへの思いを吐き出しては泣いていた。

「もっといい人がいるって」と慰められても、私にはそう思えなかった。

竹内まりやだって「彼だけが男じゃない」という言葉で何万、何百万の女の子たちを元気付けてきたのだから、きっとそうなのだと思う。だけど、やっぱり私はそう思えなかった。


キャンセルになったあなたとの予定を埋めるように、私は遊び回った。1ヶ月くらい、毎日のように興味もない男の子とご飯に行ったり、デートに行ったりした。彼氏がいるから、と断っていた遊びに全部行ってみた。好きでもない男の子と夜を過ごしてみたりもした。物のように扱ってくる人もいたけれど、ガラスのように大事に扱ってくれる人もいた。だけど、あなたじゃない人との夜は誰とだって退屈でたまらなかった。


物のように雑に私を抱いた男がつけた心の傷は、ガラスのように大切に私を抱いた男が癒していってくれた。男でできた穴は男で埋められるのは本当なのだと思う。


だけど、あなたが作った穴だけはきっとあなたでしか埋まらない。

思いがけないところから始まる恋だってあるかもしれないし、あなたの代わりが見つかるかもしれないとも思ってみたけれど、やっぱりあなたが私の心に残した穴は空いたまんまだった。あなたの代わりになってくれる人は1人もいなかった。


あなたとすれ違う日々で、すっかり忘れてしまっていた。私があなたを選んだ理由。あなたは私の性別がなんだとしても私を選んでくれたと思えたからだった。きっと私もあなたの性別がなんだとしてもあなたを選んでいた。
間違いなくあなたは男だったのだけど、男であることはそんなに重要ではなかったのだと思う。私も間違いなく女だったけれど、あなたにとって私が女であることは大切ではなかった。あなたは私にとってあなたという人間であり、私もあなたにとって私であった。それ以上でもそれ以下でもなかったのだ。


きっとこの先で、あなたが私の恋人だったのと同じように、私が恋人と呼ぶ人が現れるだろう。だけど、あなたがその人になれないのと同じように、その人があなたの代わりになるわけではない。だから私はこのまま、あなたが作った穴を持ったまま新しい人に出会っていくのだと思う。

男の穴は男で埋めろとか、簡単に言わないでよね。
彼だけが男じゃないけど、あなたはあなただけなんだよな。


私はこのままあなたが開けた穴を埋めないままで生きていく。強い女にグレードアップしたから。あなたが穴を開けた分だけ、心が軽くなって足取りもあなたに恋をする前よりも軽くなった気がする。やっぱり失恋は女を強くするって本当だった。




男の穴は男で埋めろとか、簡単に言わないでよね。
やっぱり失恋で得られる強さなんて要らなかった。





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