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毎日、同じアイライナーを買いに来るおばあちゃん


大学生。
セブンイレブンのバイトも少し慣れた。

せっかちの私は、店内を歩き回る全員の客の手元を確認し、どれくらいの袋に入れると収まるかを先に考える。

レジ前にやってくると、事前に用意した袋をさっと広げ、

光の如く猛スピードでバーコードを読み取り、商品をカゴから袋へ流し入れる。

毎日毎日その繰り返し。
同じ時間帯に来る客を、だんだん覚えてきた頃だった。

ある日、おばあちゃんが店に来た。

店内をひと回りした後、私に声をかけた。
(あのー、あれ。アイライナー。黒色の。どこにあるかな)

普段、メイク道具を買う客は少ない上、その商品の場所を尋ねられることがなかったため、

聞かれた瞬間はドキッとしたが、すぐ見つかった。

「これ、ですかね?黒だとこっちですね。はい。」

アイライナーを握ったおばあちゃんがレジに来てお金を出す。

おばあちゃんになっても、メイクを楽しむ心を忘れない。すごく良いな。 そう思った。

次の日、同じおばあちゃんが来た。私のことを覚えているか分からなかったが、こんにちはと話しかけてみた。

反応は薄い。忘れたのかな。


するとまた私の前に来て、アイライナーを探していると告げた。

「あれ、昨日?、だったかな、前も買われ、、、ました?よね?」

私の声は届いていない。

失くしたのかな。

欲しいと言われるものを断ることもできず、昨日と同じアイライナーを勧めた。

すると笑顔でレジに来て、同じアイライナーにお金を払った。


それから、また違う日、また違う日。
同じおばあちゃんがアイライナーを探しにきて、購入する。

他のスタッフももう知っていたのか。ある人はとても冷たい対応で、面倒臭そうに、アイライナーの場所を説明していた。

ある日、私にアイライナーの場所を聞いてきた。私は目から溢れそうな涙を必死に堪えて、アイライナーを勧めた。

レジ前でパカっと大きく開ける財布には、お金がたくさん入っていた。

家族はいないのだろうか。身なりもきちんとしていて、受け答えもしっかりしている。

もうアイライナー家にあるから。これ使おうね?またなくなったら買いに行こうね。お金が勿体無いから。大事に使おうね。

そう隣で言ってくれる家族はいないのだろうか。

おばあちゃんからお金を取るときに何とも言えない気持ちになる。居た堪れない気持ち。

それから、そのおばあちゃんが店に来ると、目を背けるようになった。


少しして、気がつく。おばあちゃんが店に来なくなった。

どうなったのか分からない。

もしかすると家に大量にあるアイライナーを見て、もう買いに行かなくて良いと思ったのかもしれない。


もしかすると入院したのかもしれない。施設に入ったのかもしれない。病気で弱ったのかもしれない。

きっとおばあちゃんは若い頃、自分にぴったりの可愛くて上品なメイクを施し、おしゃれに街を歩き回っていたのだろう。

そんな自分を取り戻したい一心で、日々アイライナーを探していたのかもしれない。

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