![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/98369246/rectangle_large_type_2_caec06e63a3bf320fb9c6ff6a881d051.jpg?width=1200)
毎日、同じアイライナーを買いに来るおばあちゃん
大学生。
セブンイレブンのバイトも少し慣れた。
せっかちの私は、店内を歩き回る全員の客の手元を確認し、どれくらいの袋に入れると収まるかを先に考える。
レジ前にやってくると、事前に用意した袋をさっと広げ、
光の如く猛スピードでバーコードを読み取り、商品をカゴから袋へ流し入れる。
毎日毎日その繰り返し。
同じ時間帯に来る客を、だんだん覚えてきた頃だった。
ある日、おばあちゃんが店に来た。
店内をひと回りした後、私に声をかけた。
(あのー、あれ。アイライナー。黒色の。どこにあるかな)
普段、メイク道具を買う客は少ない上、その商品の場所を尋ねられることがなかったため、
聞かれた瞬間はドキッとしたが、すぐ見つかった。
「これ、ですかね?黒だとこっちですね。はい。」
アイライナーを握ったおばあちゃんがレジに来てお金を出す。
おばあちゃんになっても、メイクを楽しむ心を忘れない。すごく良いな。 そう思った。
次の日、同じおばあちゃんが来た。私のことを覚えているか分からなかったが、こんにちはと話しかけてみた。
反応は薄い。忘れたのかな。
するとまた私の前に来て、アイライナーを探していると告げた。
「あれ、昨日?、だったかな、前も買われ、、、ました?よね?」
私の声は届いていない。
失くしたのかな。
欲しいと言われるものを断ることもできず、昨日と同じアイライナーを勧めた。
すると笑顔でレジに来て、同じアイライナーにお金を払った。
それから、また違う日、また違う日。
同じおばあちゃんがアイライナーを探しにきて、購入する。
他のスタッフももう知っていたのか。ある人はとても冷たい対応で、面倒臭そうに、アイライナーの場所を説明していた。
ある日、私にアイライナーの場所を聞いてきた。私は目から溢れそうな涙を必死に堪えて、アイライナーを勧めた。
レジ前でパカっと大きく開ける財布には、お金がたくさん入っていた。
家族はいないのだろうか。身なりもきちんとしていて、受け答えもしっかりしている。
もうアイライナー家にあるから。これ使おうね?またなくなったら買いに行こうね。お金が勿体無いから。大事に使おうね。
そう隣で言ってくれる家族はいないのだろうか。
おばあちゃんからお金を取るときに何とも言えない気持ちになる。居た堪れない気持ち。
それから、そのおばあちゃんが店に来ると、目を背けるようになった。
少しして、気がつく。おばあちゃんが店に来なくなった。
どうなったのか分からない。
もしかすると家に大量にあるアイライナーを見て、もう買いに行かなくて良いと思ったのかもしれない。
もしかすると入院したのかもしれない。施設に入ったのかもしれない。病気で弱ったのかもしれない。
きっとおばあちゃんは若い頃、自分にぴったりの可愛くて上品なメイクを施し、おしゃれに街を歩き回っていたのだろう。
そんな自分を取り戻したい一心で、日々アイライナーを探していたのかもしれない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?