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「非財務情報」を意識した事業計画こそ、その実効性を高める

TAKA(@Murakami_Japan)です。今日は企業経営に触れると必ず向き合わなければいけない「事業計画」について少し書いてみたいと思います。さて、良い事業計画ってどういうものだと思いますか? そしてイマイチな事業計画には何が足りないと思いますか?

会社が作る事業計画が果たす役割は様々

事業計画を最初に作るのはどういう時でしょうか。人によって様々かもしれません。まだ何もない構想段階から、ある程度の事業イメージを作るために簡単な事業計画を作る人もいるでしょう。その際は、当面の事業運営に必要な資金がどれぐらいになるか、またこれがうまく行った際にどれぐらいの事業規模まで拡大できるのか。そんなことを皮算用するために作ったりするでしょう。それはあくまでも「自分用の事業計画」だと言えます。自らが行う事業のイメージをプロダクト案や事業コンセプトからもう少し具体化し、イメージをつける役割を果たしています。だから、そんな計画など一切作らずひたすらに動いて事業を推進させようとする人もいるでしょう。

多くの人にとって事業計画が「必要」になる明確なタイミングがあります。それは資金調達を行う際です。ではなぜ、資金調達を行う際に事業計画が「必要」になるのでしょう。それは経営者と投資家という異なる2つのステークホルダーにとって共通の理解を醸成する必要があるからです。経営者が描く事業の未来やポテンシャルを事業計画という形で具体的に示すことで、投資家にとって理解しやすい状況を生み出すために作ります。

他にもあります。人を雇用するにも事業計画が必要になります。人を雇用することは大きな責任が伴います。その人の人生の一部を預かるわけですし、当然給与の支払いやキャリアパスなど様々なことに責任が生じるわけです。だからこそ、雇用することが妥当であるという計画なしには、無責任と言えますし、当然一定の合理性に納得が持てるような事業計画は必要なのです。そうしなければ、給与支払いができず瞬く間にその会社は倒産してしまうでしょう。

どちらのケースにも共通しているものがあります。それは

1)外部アセットを獲得(=調達)する

2)ステークホルダーとの関係性を円滑にする

というものです。

企業経営とは以下のように言い表すことができると思います。

外部から何かを調達し、そのアセットを活用して、社会的価値を創造し、そこから発生する売上や利益をステークホルダーに還元し、各ステークホルダーがその事業の発展にインセンティブを感じ続けられる状況を生み出すこと

TAKA語録より

だからこそ、その設計図としてまた潤滑油として事業計画は様々な役割を果たすのです。

もう少し細かな役割としては以下のようなものも含まれるでしょう。

・外部投資家から資金調達、及びその後のコミュニケーション(IR)・人材採用の前提・資金繰り、及び予実管理・上場審査、及び企業価値評価の前提

事業計画は予想屋の「なったらいいな」の未来図ではない

事業計画を会社にとって都合の良い姿を描くことである、そんな誤解をしている、もしくは誤解をしたまま作っている事業計画に触れ合うことがよくあります。これ自体に全く意味がないとは言いませんが、その事業計画はある側面の役割しか果たしていません。

より今ない価値を社会に提供しようとするビジョナリーな起業家の方が、今ある事業価値を保全し着実に成長させようとする経営者よりも、こんな事業計画を作りがちかもしれません。こういう事業計画のことを「WILLの事業計画」、つまり会社の意思を表現しただけの事業計画と私は呼んでいます。

願望や意思を表現しただけでも、それはそれで意味があるのですが、それに留まってしまうと、その事業計画を評価する立場の人に求められるのは、この会社・経営者はこの事業計画を達成できるだろうか、という確率を弾き出す予想屋に過ぎません。それでも外部ステークホルダーは、投資家にしてもパートナーんしても、従業員にしてもその会社の描く未来を理解する情報としての役割は果たしていますが、結局はその未来をどれだけ信じるかという外部ステークホルダーによる判断力、つまり予想力を試しているに過ぎないのです。

よくありがちなイマイチな事業計画

もう少し具体的に、限定的な役割しか果たしていない、そんなイマイチな事業計画がどんなものか見てみましょう。こんな風な事業計画を見たことはないでしょうか? また作っている事業計画がそうなってしまっていないでしょうか?

かなりイマイチ(レベルC)

1)計画数値が過去数値と連続的ではない(=過去数値が根拠になっていない)
2)単なる財務数値に成長率を掛けただけ(=KPIや財務項目に分解されてない)
3)事業計画を構成するパラメーターに根拠がない(=単なるWILLに過ぎない)

かなりイマイチな事業計画とは

流石にここまで酷いケースは稀(もしくは企業に事業計画を作る機能や人材が不足している)かもしれませんが、次のレベルではどうでしょうか?

そこそこイマイチ(レベルB)

1)KPIに分解されているが、そのKPIを単に横伸ばししただけ
2)事業計画を構成するパラメーターに分解して根拠らしく見せているが、そのパラメーター自体に根拠がない

そこそこイマイチ、でもかなりありがちな事業計画とは

このレベルの事業計画はかなり頻発しているように思います。それはスタートアップだけではなく、大企業でもよく見ていくと結局こうなってしまっているケースも存在します。それだけ陥りやすい状況とも言えると思います。

典型的には以下のような事業計画です。

当社はこれまで順調に売上高を拡大してきました。現在の従業員や売上に寄与する営業系人員が10名、それ以外で5名存在します。今後、売上を10倍に拡大するために、営業系人員を100名まで増員、それ以外でも15名まで拡大します。それに必要な採用計画はありますし、先行投資分も含めて、キャッシュフローを確保するには目下10億円の資金調達が必要です。
営業人員の採用プランは以下の通りです。採用費をこれだけ積みましており、急速な人員拡大に対応しています。営業人員以外も拡充し、事業拡大に必要な機能強化にも抜かりがありません。

営業人員は教育やノウハウの蓄積により生産性の向上も狙っていきますが、この計画では保守的に生産性の向上は織り込んでいません。

よくありがちな事業計画

この計画のどこが問題なのでしょうか。財務計画に必要な費用も細かく分解されており、成長に必要な投資計画(=採用計画)も明確です。計画通り採用を進め、陣容を拡大できれば、確かに売上拡大が見込めるように思います。

もしこの計画のように売上拡大に必要なリソースの確保だけを、連続的に実施していけば、事業が着実に拡大するというのであれば、どれだけ経営とは簡単なことでしょう。それなら、日本企業はいまだにJapan as a No.1だったかもしれません。人材採用を進めたり、生産能力を拡大するだけで事業を成長させられるはずがありません。

この例は相当に極端な例ですが、仮に売上高の構成が細かく分解されていても同様です。一定のセグメントに分解され、セグメントごとに成長率を変えていたり、売上高が単価や数に分解され、一定の単価の下落上昇を織り込んでいても、本質的には変わりはありません。あくまでもそれだけだと経営の「WILLの事業計画」に過ぎず、予想屋のための事業計画に留まってしまっているからです。

良い事業計画に宿る明確な実行プラン

では良い事業計画とはどんなものでしょうか。結論としては、良い事業計画には明確な「実行プラン」が宿っています。

言い方を変えれば、事業計画が単なる「数字に遊び」であり、過去実績や外部調査機関などの市場データを、合理的に紡ぎ合わせた「ロジカルな数字の集合体」に過ぎないものです。念の為誤解がないように繰り返しますが、しっかりロジックを細かく構築することは、それはそれで別の意味で大事なことです。ただ、それだけに終始してしまっては本当に良い事業計画の域には達しないのです。

良い事業計画とは「実行プラン」が起点になった計画です。こうなりたいという未来予想図の「WILLの事業計画」はトップダウンであり、財務数値ドリブンです。一方、「実行プラン」が起点になった計画は、戦略・戦術・プランドリブンです。大きな差は細部に宿りますが、実行プランから組み上げた事業計画は、どこに成長の課題やリスクが潜んでいるかがより明確に事業計画に反映されることになります。明確な「リトマス試験紙」をくぐり抜けた事業計画になりやすいのです。

事業計画にはその達成の可否を占う重要なKPIがいくつかに絞られていきます。そのKPIの維持拡大が本当にできれば、事業は成長していくわけですが、それが実際は極めて難しい。そういうKPIを特定し、その実現に向けてより詳細な数字の分解や、戦略の解像度を高めていき、実行プランがより具体的になっていけば、当然ですが事業計画の達成確度も違ってくるでしょう。

「非財務情報」がなぜ極めて重要なのか

ここまで読んでいただいても、言いたいことはわかるが、どうやったら「実行プラン」起点の良い事業計画が作れるのか、イメージが湧かないという方がほとんどではないでしょうか。

ここで昨今「企業開示」(=ディスクロージャー)の世界で大いに話題になっている「非財務情報」との関係性について触れておきます。

ディスクロージャーにおいて「非財務情報」が重要だと言われるようになったのは、「企業価値評価において、企業が有価証券報告書などで開示する財務実績だけを見ているだけでは十分にその会社の実力を測りきれていない」、という実態に即したところから議論がスタートしています。確かに、同じ実績財務数値を見て、会社から説明を受けた中期事業計画やその戦略を聞くだけでは、その実行確率を評価しようとしても、数字の羅列をいじるだけでは、その「答え」は似通ったものになってしまい、かつそれが必ずしも正しくない(※だから企業投資は難しいわけですが)という膨大な事例に裏打ちされた実態がそこに存在しているからです。

では、順調に成長しているはずの企業で、その後も持続的に成長し競争優位性を高め続けられる企業と、どこかでその成長が止まってしまい競争優位性を失ってしまう企業の差を分けるものはなんでしょうか。それこそが「非財務情報」です。そして、この投稿で何度も触れている「実行プラン」を構成する中身でもあるのです。

良い事業計画にあって、イマイチな事業計画にはないもの。それは表面的な財務数値の集合体である事業計画に沿った形で、「実行プラン」に紐づいた「非財務情報」に対する戦略目標が具体的に存在しているか否かです。

「非財務情報」とは具体的にはどんなものでしょうか?

・ブランド
・人的資本
・技術開発力
・商品力
・ステークホルダーとの関係性(※従業員、自治体・政府、パートナー)

当然ですが、素晴らしい企業にはこれらもののが備わっており、業界でもトップもしくはトップクラスであるからこそ、そのポジションが維持され、そして大きな収益を生み出しているわけです。

事業は拡大する中で、徐々に販売する市場が変化していき、競争環境が変化していきます。むしろ変化しないものを探す方が難しいぐらい、広義の市場は変化を前提として考えるべきものです。

だからこそ、冒頭で紹介したような単純なKPI分解の延長線上だけで説明しようとすると、どうしても実効性に疑問が生じるような計画にならざるを得ないのです。

仮に3-5年の事業計画を作ったとしたら、以下の計画図も併せて作れると良いでしょう。良い事業計画はそれぞれの年度ごとにステークホルダーとの関係性はどのように変化していくか、そこに生じる課題は何か、ブランドや人的資本など「非財務情報」に対してどのように投資をしていき、それが市場を拡大市競争を勝ち抜く上で適切なベンチマークの上に成り立ち、意味のある「非財務資産(アセット)」になり、企業価値の根源を構成するものとして積み上がっているか、それらを示した計画図です。

財務情報で構成される事業計画はPL(やキャッシュフロー)といったフローの数値ばかりでは、当たり前ですが盤石性を語るには不十分です。それはフローの数値はストックしないことが大前提であるからです。だから、当社の売上はストック性があるという「詭弁」を語る必要があるのですが、それを「詭弁」ではなくリアルなストック性としていけるかが、「非財務資産(アセット)」です。

だからこそ、着実に企業に蓄積させていくことが計画として可能な「非財務資産(アセット)」に着目し、それを時間をかけてどのように積み上げていくか。その結果として、フローのPLやキャッシュフローが生み出せる状況が作ることができれば、それこそが「実効性」を伴い、かつ「企業価値向上」をさせることができる事業計画と言えるのだと思います。

長文となりましたが、読んでいただきありがとうございます。事業計画については、他にも色々と思うところがありますが、今回はここで一旦打ち切ります。また、好評いただきましたら、関連テーマで投稿してみたいと思います。

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