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Sequoiaの変貌の必然:スタートアップは長期的な社会価値創造のインフラへ

TAKA(@Murakami_Japan)です。実はNewspicksの新サービス"Topics"の初代オーナーに任命されました。そしてこれが第一回の投稿です。これから時事ネタ、国内外のスタートアップ、大企業、M&Aや資金調達、IPOなど、雑食なテーマをファイナンスやガバナンス 、サステナビリティといった観点で切り取っていきたいと思います。是非、noteと合わせてフォロー宜しくお願いします。

記念すべき第一回のテーマは、Sequoia Capitalです。2021年10月末に突如発表された世界の著名VCの筆頭格であるSequoiaによるファンドスキームの大転換について書いてみたいと思います。これはファンドスキームというマニアックな一部の人にだけが知っておけばいい、そういう話ではありません。むしろ、社会全体の大きな変化を如実に表した皆が注目すべき大転換だと思います。

早速、何が起きたのかと、その理由について書いてみたいと思います。

Sequoiaの変貌

こちらのリンクにSequoiaの発表文があります。「The Sequoia Fund: Patient Capital for Building Enduring Companies」、かっこいいですね。「セコイヤ:永続的な会社を創出するための長期性資本」といった感じでしょうか。

Sequoiaは半世紀近くベンチャー投資を行うVC界のレジェンドです。ベンチャー投資を行うためのスキームはそれ以来少しずつ変貌は遂げていましたが、常に期限付きのファンドでした。10年間という期限付きであり、ファンド満期という言葉が常にキャピタリストにはつきまとって来ました。今回、Sequoiaはこの満期を無くしたのです。専門用語ではClosed EndのファンドストラクチャーからOpen Endへの変更です。この変貌は大きな意味を持ちますが、それは後ほど解説します。

実は、今だからこそ白状しますが、私は前職のゴールドマン・サックスの時代からこのVCのファンド満期にイノベーションの機会があることに気がついていました。そして、日本のスタートアップのエコシステムが急速に拡大し、マザーズ市場への早期上場というスモールIPOやIPOゴールという現象が散見される中、このギャップに大きな課題を見出していました。

なぜならば、スタートアップは長期的に成長しうるし、そういうスタートアップこそが未来社会、もっと言えば持続可能な社会の実現の主役であると考えたからです。そんなスタートアップを応援するに際して、IPOは単なるイベントの一つに過ぎないし、長期的な資本基盤こそがマッチしていると確信していたからです。

今回、シニフィアン創業前(約5年前)に考えていたスキーム案をまさにSequoiaが実現したのです。正直、悔しいという気持ちが大きいのですが、このアイデア自体を思いつくことだけであれば、誰にでもできると思います。問題は、このスキームを具体的に実現することが難しかったのです。少なくとも私にはできませんでした。

なお、Sequoiaは一気にこのスキームに転換したわけではありません。事前に、入念にファンドストラクチャーを多層化していました。Sequoia Capital, Sequoia Heritage, Sequoia Capital Global Equitiesといった風にです。なお、我々もリード投資家として参画しているSmartHRには、シリーズCでSequoia Heritageが、シリーズDではSequoia Heritageがフォロー、Sequoia Capital Global Equitiesが新たに参画しています。

このSequoia Capital Global Equitiesは上場後も保有できるクロスオーバーファンドです。我々が運用しているTHE FUNDとほぼ同じです。大きく育ててきた未上場スタートアップを上場を見据えて大きくフォローし、中長期で支えるためのファンドです。

そうなのです。もともとSequoia Capital Global Equitiesというクロスオーバー・グロースキャピタルを保有していたのです。ですが、今回の変貌はSequoia Capital Global Equitiesを追加した時とは比べものがないインパクトです。なぜならば、超長期で成長を持続するGoogleやAmazon、Netflixのような企業で最大のリターンを創出するには、できる限り長期で保有することが最適解だからです。これを実現したことで、不要なタイミングで売却をする必要がなくなり、短期の価格変動にも左右されず、むしろ創業者やCEOよりも超長期の目線で戦略を考えて、伴走することが可能になるのです。

Sequoiaの変貌が破壊的なインパクトをもたらす訳

今回、Sequoiaが採用したOpen Endのファンドには、満期がない以外にもうひとつ大きな特徴があります。それはファンドにとって悩みの種であるファンド設立に伴う資金調達が、より柔軟に行うことが可能になることです。

多くのヘッジファンドが採用しているように、必要があればファンドを"Open"にして投資家から追加の資金を調達します。その代わりに投資家には一定の制限はありますが、要望に応じて"Open"に資金返還を行います。これは流動性を提供していることに他ならず、これまでVCファンドには投資できなかった大きな資金源(アセットオーナー)から調達することが可能になります。

この意味は大きく3つあります。1つ目は、創業時から最も会社や経営陣に寄り添ってきた資本パートナーが持続的に支援できることを意味します。満期がなくなり、ファンド規模がある意味青天井に巨大化できる訳ですから、世界中の有望スタートアップをポートフォリオとして維持し続けることができます。まさにソフトバンクグループのように郡戦略として、事業会社のように無限に関連会社として保有し続けることが可能になります(※ちなみに間違いなく孫さんもこのスキームは考えていると思いますし、いずれフォローしてくるように思います)。

2つ目は、スタートアップがIPOする必要がいよいよなくなるということです。SVF(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)が登場する前は、さすがにシリコンバレーといえども数千億円の未上場資金調達は一般的ではありませんでした。また、IPOを遅らせるには多くのVCのファンド満期に対応して、セカンダリーの売却が必要にあります。小さな会社であれば問題ない額も、数兆円規模になると数%でも数百億円から数千億円に上ります。この規模の玉(株式)を捌くには、IPOが最も効率的だったのです。

しかし、これからは違います。Sequoiaが投資先のスタートアップに変わって、自らのOpen Endファンドで追加の資金調達を繰り返すことで、投資先を上場させることなく成長資金を持続的に投下することが可能になるのです。

3つ目は、SVFやTiger Globalが引き起こした、VC大型化による高いバリュエーション、大規模出資を武器にした、圧倒的な大競争時代、その中でもいくつかのVCが寡占的な支配力を有する時代が到来しようとしています。インターネットテクノロジーでGAFAMが支配するようになったように、VCというビジネスでも寡占化の波が到来しようとしているのです。

如何にこのSequoiaの変貌が戦略的であり、スタートアップエコシステムに留まらない資本市場全体に影響を与える変貌であるか、ご理解いただけたでしょうか。

Sequoiaだからこそできた変貌

さて、冒頭少しご紹介した通り、私もこのスキームについては考えていました。でも、私ごときではできなかったのです。これからOpen End化を検討するVCは増えてくるでしょう。徐々に境目が曖昧になりかけていた、VCとPEファンドもこれで明確な差が生まれてくるでしょう。PEファンドのOpen End化はVCファンドよりも難しいと思うからです。それはPEファンドの投資対象が持続的に保有することが必ずしもよいとLP投資家に説得することが難しいからに他なりません。

Open End化に必要な要素は3つあります。1つ目は、圧倒的なトラックレコードです。単にIRRが素晴らしいとかそういう次元では不足するでしょう。それだけなら既存のClosed Endのスキームから変更するインセンティブがLP投資家にはありません。圧倒的だからこそ、Open Endのスキームで投資したい投資家が別途存在するからこそ、既存のLP投資家に対しても交渉力が生まれ、このスキームが実現できるのです。

2つ目は、次のGAFAMになるような超有望スタートアップ、もはやユニコーンではなく、デカコーン、ヘクトコーンクラスをいくつもソーシングできるという実績とポテンシャルを示す必要があります。しかも、持続的に資金提供する立場ですから、基本的にはリード投資家のポジションです。世界中でも限られた数の投資候補先を、しかもリード投資家として投資していくのは並大抵のことではありません

おそらく、Sequoiaと同様のポジションを取れるのは、最終的にグローバルでも数社レベルではないかと思います。既に、名乗りを上げているTiger Global、SVFは有力候補ですが、あと1-2社、AccelでしょうかAndreesenでしょうか、どこでしょうか。

3つ目は、上場株投資家としての機能整備です。日本でもそうですが、未上場投資のみを扱うVCファンドとヘッジファンドなどの上場カブファンドでは、求められるレギュレーション、それに必要な体制が全く異なります。そういった体制構築をすることが不可欠です。ただ、実際には先の2つの用件を満たせる超一流VCであれば、そういう人材を獲得することは何ら制約にならないでしょう。

投資家は分断から統合へ

Sequoiaの動きは、あらゆる投資ファンドの戦略にも影響するでしょう。既に上場株機関投資家の未上場株式へのクロスオーバー投資は、日本でもかなり浸透してきています。ロングオンリーと言われる優良機関投資家からヘッジファンドまでが触手を伸ばしてきています。今は、上場株のファンドマネジャーがある意味片手間というか、ついでにやっているケースばかりですが、この流れを受けて、本格的なグロースエクイティの部門を人材採用も含めてどんどん立ち上げていくでしょう。

そうすることで、上場株機関投資家と一部勝ち組VCとの垣根は無くなっていくと思われます。その世界は、これまで投資家の世界で当たり前とされていた、アセットクラスごとの棲み分け、分断の世界から、ゆりかごから墓場まで、まさに垂直統合のファンドが大きな力を持つようになっていくでしょう。

世界の時価総額に占めるGAFAMを筆頭としたスタートアップの比率は年々向上しています。いずれ、世界を飲み込むのはGAFAMとそれに投資する一部の投資家という世界が到来してしまうでしょう。

この流れは、アセットオーナーと呼ばれる、ファンドへの投資を行う年金や金融機関へも大きな変化をもたらすでしょう。アセットの分配方針自体が戦略であり、そのために人材を抱えていたところが、徐々に大型の投資家への配分が大きくなり、その実質的な役割を奪われていく可能性があります。もちろんすべてのファンドがなくなるわけではないですが、徐々にその影響度が大きくなってくると思います。アセットオーナーも分断ではなく統合型のマインドで投資リターンをみていかなければ、単なる機会損失を生むだけの結果になってしまい兼ねないのです。

スタートアップは社会価値創造のインフラの主役

さて、なぜSequoiaはこの大胆なスキーム変更をしてまで大きく変貌を遂げたのでしょうか。ここまでにもその理由はいくつか書いていますが、最も本質的、かつ本源的な部分は、素晴らしいミッションを有した一部の勝ち組企業が持続的に成長を続け、未来をどんどん生み出していく存在になることが、特にインターネットが生まれてから25年の間に明確な成功体験として刻まれたことです。

失敗体験としては、ファンドストラクチャーの制約ゆえに、早期に売却を余儀なくされ、大きな機会損失を伴ったことも数えきれないことでしょう。

それ以上に、大きいのは、スタートアップが未来の社会価値を創造する主役であることが明らかになったことだと思います。だからこそ、未来のインフラを創り出すスタートアップが有する時間軸と同じ目線で、資本家もいるべきであると確信したからに他なりません。

私も全く持って同じように感じています。スタートアップは社会価値創造のインフラの主役であり、社会価値創造を考える上では、長期性こそが最も重要であるからです。いみじくも、私の著書「サステナブル資本主義」でも触れていますが、長期的な視点が極めて重要になるのです。Sequoiaと同じく、我々も長期的な視点で物事を想像し、社会価値創造の脇役ではなく主役となれるよう頑張っていきたいものです。


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