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リスクオフ局面でも成長性を加速する「掛け算」の経営

TAKA(@Murakami_Japan)です。資本市場はコロナ、半導体不足でもリスクオンを続けていましたが、目下の金利上昇、ウクライナという世界のマクロイベントに対しては脆く、一気にリスクオフ局面に入ってきました。そんな時だからこそ、事業のファンダメンタルズを成長させることができるかが重要になってきます。短期的な市場からの評価はもちろんのこと、リスクオフ局面を抜けた後に大きな差となってくるからです。

日本からも徐々にユニコーン企業が生まれてくる素地が整ってきました。ユニコーンは目的ではないですし、スタートアップの社会的重要性とイノベーションによる社会的価値の広がりにより、より大きなデカコーンがグローバルでも増加傾向にあります。今回は成長を加速し、長期的に成長性を持続するために求められる経営いついて書いてみたい扉思います。

評価される企業に求められる高い成長性

株主でありオブザーバーを務めているSmartHRも昨年ユニコーン企業になりました。どういった企業がユニコーン企業になるのでしょうか。ミッション、カルチャー、組織、プロダクト、市場規模、収益力、様々な観点でその要因は語ることができるかもしれません。

複雑な分析はまたどこかの機会に任せるとして、今日は成長性に着目したいと思います。未上場スタートアップでもポストIPOスタートアップでも、高い評価(=バリュエーション)を得ている企業に共通しているのは、持続的な高い成長率です。超優良高成長企業としてのベンチマークとして、持続的に30%の成長を維持できるかという目線があります。

下図はSmartHRの成長曲線ですが、まだ規模が小さく急成長期であるとはいえ45億円規模になってもまだ100%(つまり倍)の成長率を維持しています。この成長率を実現することは決して簡単ではありません。では、どういう企業が高成長を実現できているのでしょうか。

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誰もに迫り来る「成長鈍化」の足音

起業した直後は全てが創業者が1名いる以外は、全てがゼロの状態です。だから、何か結果を出せば、それは成長と呼ばれ、その成長率は100%を大きく超えます。創業してから何年かの間は、倍々成長を実現できるスタートアップはそれほど少なく無いのかもしれません。

ただ、規模が大きくなるごとに成長率を維持することが難しくなってきます。それは算数で明らかなのですが、例えば同じ売上高成長率を実現するために必要な売上高の増加額がどんどん大きくなっていくからです。

1億円を倍するには追加で1億円の売上高を達成すれば良いですが、10億円を倍にするには10億円の売上高が追加で必要になります。顧客数を増やすにしても、従業員数を増やすにしても、1億円と10億円の増加には10倍の実行上の難しさが伴うのです。毎年10億円ずつ売上高を拡大している成長企業ですら、数年で急激に成長率が鈍化し、一気に30%を割り込んでいくのです。

10億円→20億円(yoy+100%)→30億円(yoy+50%)→40億円(yoy+33.3%)→50億円(yoy+12.5%)

そして企業は成熟企業への階段を驚くほど一気に登っていくのです。経営者の自己認識や組織の成長は無視して、市場からの評価だけが急成長企業から成熟企業としての評価に遷移してしまうのです。

これは高いPSRで評価されていた状態から、低いPSRの評価になるだけではなく、PERといった収益力で比較される状態に変化していくことも含まれます。この変化のインパクトはとてつもなく、経営が先手を打っておかないと、一気に企業の選択肢を狭めてしまい上場後の「第二の死の谷」に陥る要因となってしまうのです。

「足し算」の経営の限界

先ほど示した事例は単純に売上高が毎年10億円増加していくというものです。これを「足し算」の経営と呼ぶことにします。

KPIに分解してみましょう。いくつかのパターンがありますが、例えば以下のようなものです。

毎年顧客を100社獲得する。そして10億円の売上高を増加させる。この会社にとっての最も重要なKPIは顧客数ということになります。これを単純に100社、200社と「足し算」していくことで成長を実現するのが足し算の経営です。

これでは、成長率が急速に鈍化することが明らかなのです。では、どうすれば良いのでしょうか。

成長を加速させる「掛け算」の経営とは

カラクリは極めて単純です。成長を実現するKPIを2つ以上設定し、それぞれを成長させれば良いのです。具体例で見てみましょう。

売上高の増加 = 顧客数の増加 ✖️   顧客単価の増加

例えばこんな感じです。顧客を毎年100社獲得することに加えて、獲得する顧客単価を前年対比50%引き上げるのです。そうすれば成長率は以下のようになります。

10億円→20億円(yoy+100%)→35億円(yoy+75%)→57.5億円(yoy+64.3%)→91.3億円(yoy+58.7%)→141.9億円(yoy+55.5%)→217.8億円(yoy+53.5%)→331.7億円(yoy+52.3%)・・・・・

このようになかなか成長率が30%を割り込むことがありません。そして、200億円を超えても高い成長率に見合った評価を受けることができます。

30%の成長率を超えて入ればPSR10倍の評価を得られる市場環境だと仮定しましょう。「足し算」の経営では、せいぜい40億円の売上に対して10倍ですから400億円の企業価値ということになります。

一方、「掛け算」の経営では少なくとも330億円の10倍以上の評価、つまり3,300億円以上の企業価値で評価される可能性が出てきているのです。おそらく実際にこの「掛け算」の経営を実現できれば、もっと長期的に30%を超えているでしょうから、1兆円の時価総額に達することも時間の問題と言えるでしょう。

「足し算」の経営と「掛け算」の経営には、これほど大きな差が生まれるのです。

ポストIPOスタートアップに見る「掛け算」の経営

1,000億円を超える時価総額で評価されている3つの会社を見てみましょう。freee、マネーフォワード、そして私も社外取締役を務めるSHIFTです(※SHIFTについては私の個人的見解です)。

それぞれもっと複雑かつ緻密に「掛け算」の経営をしていると思いますが、わかりやすくイメージしやすい「掛け算」をひとつずつ紹介したいと思います。

freeeは典型的なSaaS企業です。売上高(やARR)を増加させるために、以下のような計算式を持っているはずです。

ARR = MRR ✖️ 12(ケ月)

MRRの増加分 = 既存顧客数 ✖️ 既存顧客の単価上昇 + 新規顧客数 ✖️ 新規顧客単価の増加 = 既存顧客数 ✖️ (既存プロダクトの単価上昇 + 新規プロダクトの単価上昇) + 前年度の新規顧客数 ✖️ (1+前年度からの獲得顧客数の増加) ✖️ 新規顧客単価の増加 = ・・・・・

といった感じです。

マネーフォワードもSaaS企業ですので、同様の計算式はあるでしょう。特徴的な計算式としては、M&Aにまつわるものがあります。

売上高の増加分 = 既存グループ企業の売上高の増加分 + 買収してグループ化した企業の売上高 = 既存グループ企業の売上高の増加分 + 買収企業数 ✖️ 買収してグループ化した企業の売上高 ✖️ 買収対象企業の規模の拡大 = ・・・

SHIFTはマネーフォワードと同じようにM&Aによる「掛け算」の経営を行っていますが、それ以外の特徴として以下のようなものがあります。

既存事業の売上高の増加分 = 従業員数 ✖️ 従業員あたりの売上高 = (従業員数 + 新規採用 + 新規採用数の増加分) ✖️ 従業員あたりの売上高 = 従業員数 ✖️ 従業員あたりの売上高 + 新規採用 ✖️ 従業員あたりの売上高 + 新規採用数の増加分 ✖️ 従業員あたりの売上高 = ・・・

急成長を持続し、高い市場からの評価を得ている企業には共通して、一定の「掛け算」が存在しています。これを実現するには、緻密な戦略性(=KPIを適切に分解した経営)とそれを実行する実行力が不可欠です。相当明確に戦略を言語化し、定量化できていなければ、複雑かつ多数のKPIのそれぞれを持続的に成長させ続けることは極めて困難です。

日本からデカコーンが誕生するためには、「掛け算」の経営をできる経営チームを増やしていく必要がある、そんな風に感じています。成長速度こそが、スタートアップの特徴であり強みであるからですし、スピードを上げていかなければいつまで経っても社会実装が進み、大きな社会課題の解決が難しいからです。

経営から社会を変えていく。そのためのヒントになれば幸いです。

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