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装画『未来を、11秒だけ』-メイキング

『未来を、11秒だけ』
著:青柳 碧人 氏
刊:光文社
発売日:2019/07/18
ISBN-10: 4334912931
ISBN-13: 978-4334912932
デザイン: welle design 坂野 公一 氏

装画を担当いたしました。

シェアハウス《FREEDOM TREE》の住人たちには秘密がある。
本名。身許。ここに住む理由。

11秒だけ、未来が見えること。

繁華街でトラブルに巻き込まれた篠垣早紀は、《FREEDOM TREE》に住むジョージに危ないところを助けられる。
隠し事の多いハウスメイトたちに戸惑う早希は、やがて彼らの秘密と、謎めいた失踪事件の存在を知る。
「遺留物の記憶」を夢に見ることができる元ホスト・星川 司と、同じく夢にまつわる特殊能力を持つ早希は、事件の真相に迫ろうとするが……
謎と緊迫感に満ちた、ノンストップ・サスペンス。

2018年刊行『二人の推理は夢見がち』のシーズン2です!
雑誌連載中の挿絵も担当させていただいていたので、とっても嬉しい。


1:ご依頼

印象的な構図で主要キャラを、背景を描かない形で配置…の予定
 (前作の雰囲気に沿って)
・細かいオーダーはデザイナーさんと打ち合わせしてから決めるので、
 しばらく待機。提案があるならどんどんしてもいい
・納期は2ヶ月ほど
 (ラインナップの都合でゆっくり進行)

ゴールデンウィークがはさまったりで制作に入るまで間が空きました。
こういうこともあるのですね〜
(2019年は10連休であちこち大変だったろうな…)
原稿は連載挿絵を描いた際に読み終わっています。
 

2:アイディアスケッチ

先方から具体的なオーダーが出るまで待機するつもりでしたが、
「こんなのできたらおもしろいかな?」というのを思いついたのでご提案。
前作と比べると変則的すぎるかも…なので本当にざっくり。

物語に登場するシェアハウス《FREEDOM TREE》にひっかけて
作中に登場するいろいろな「モノ」がぶらさがっている巨木の枝に、主人公二人が座っている…という図。
いろいろな方向へねじくれて伸び広がっていく「木」で、作中の複雑な人間関係を示唆できないかなと。

ちなみに、
背景に「ねじれた木」を描くのは雑誌連載の1話でもやっていました。これが楽しかったので、単行本装画でも活かせないかな〜と思ってはいたのです。


3:フィードバック

今回、「思いやりのすれちがい」「未来予知のかんちがい」「錯誤と疑惑のねじれ」といったあたりが作品の心理的なモチーフとなっておりますので、
それがねじれた樹で表現されていて、とてもいいと思いました。
司と早紀が向かい合っていないのもいいですね。
早紀が少しだけ司をうかがうように上に目線を上げていてもいいかも(顔はそのままで)しれません。
刊行は7月ですが、作中は冬ですので、どこか寒々しい感じも作品にふさわしいと思います。

ということで、基本的にこの構図とアイディアをもとに、細部を詰めていっていただければと思います。
それぞれ木の枝が未来を示唆しているようでとても面白い構成と思っております。
木の色は赤なりの「違和感のある色」で仕上げていただくのがよいと思いました。実際の木ではなく象徴的な存在感のある木になるように。

なんとあんなにもざっくりしたアイディアスケッチが採用。嬉しい驚き。
また、心理的なモチーフの表現…に関しては、自分ではそこまで深く考えていなかったのでちょっと恐縮。
本番ではそういうところも表現できるよう心を込めたいと思いました。


4:ラフスケッチ(約7日)

今回は「時間」が大きなテーマのひとつなので、さまざまな「時計」
そして「鳥の巣箱」を散りばめてみました。
《FREEDOM TREE》でルームシェアしている人々それぞれの人生…みたいなイメージもあります。

↑こちらは人物がアイディアスケッチと同じ位置関係で、
・早希がカメラ目線
・早希が司の方を見ている

の2パターン。

↑こちらは二人の位置を入れ替え、
・背中合わせで、早希がほんのり司に視線を投げている
パターン。
ラフを進めながら、この二人は「となり合う」より「互いに背中を預ける」イメージかなぁと思えてきたので。

描きながら「全体を縮小したほうがスッキリ収まりそう?」とも思いましたが、全体のバランスなどまずはデザイナーさんのご意見をうかがおうということでこのまま提出。

4:レイアウトラフ(約1日)

ラフいいですね!
拡がりと閉塞感の両方が感じられる不思議な絵だと思いました。
人物描写は背中合わせを採用。
女性と男性の温度差が大きく「この二人はいったい?」という引きを感じました。
とても気を入れて描いていただいているのですが、
やはりちょっと要素が多くまた紙面における絵のサイズ感も大きいため、
全体的に減力の方向で調整をお願いしたく思います。

大きな調整方針は
タイトル回りや主人公周りの白場(余白)を大きめに作る。
・紙面全体の圧を下げる。
・木はやや上方にあって足下にも空間が出来るようなイメージに。

↑以上を踏まえ↓

・時計や枝の一部をカットしています。
・表2側に延びる枝を少し補足するなど紙面の抜け感を意識した調整。
 細くしたり変形もさせています。
・背表紙部分はカット(背で分離)して配置が妥当かなと思っております。

タイトルと主人公、背表紙の文字要素の抜けが確保できれば、
後はアレンジ自由
でお願いいたします。

レイアウト「A」はラフをそのままのサイズで配置したもの。
「B」は調整バージョン。わかりやすい!

5:修正ラフ(約1日)

やはりこちらのほうがスッキリ見やすくてよい!

情報量を減らすにあたって、
・司の隣にあった振り子時計→割れた大きな時計
・鳥の巣の中にあった時計→黒い目覚まし時計
・右端の振り子時計→壊れて歯車が散っている
など、ちょこちょこ変更しています。
全体が縮小されたので、もう少し「時計」の印象を強められたらなと…
(割れていたり秒針がなかったり…な時計は意味深で怖い雰囲気も出せるかなと)

こちらのラフでOKが出ました。
修正ラフでも仮レイアウトを作ってくださったので、よりわかりやすかったです。


6:完成(約10日)

完成版は前作と同じように、光が散って幻想的なかんじに。
ラフでは黒かった部分に青緑色を足し、寒々しい空気感を出しました。
(描き込み量が多いのでブラッシュアップに時間がかかりました…)
木と人物の体はシャーペンで、人物の顔のパーツや時計などはPhotoshopで描いています。

あまり細かい絵だと、せっかくシャーペンで描いても印刷ではつぶれてしまう…ということも多々あるのですが、
このシリーズは前作から「繊細で叙情的な雰囲気で」というオーダーがあったので、有機的なモチーフはなるべくアナログで描きたいなと。

↓木が描き上がるまでの過程

この悪魔のようなねじれた木…は、前々からミステリーやホラーで使えそうなモチーフだなー描いてみたいなーと思っていました。
ので、とても楽しかったです!

納品時は
・完成品
・人物を排したもの
・シャーペン線画の木

の3点セット。
こうした差分をお渡ししておくと、カバー下などにも使えるらしいので。
別にそのぶんのギャラが増えたりはしませんが(笑)
単純に私が読者なら、そういうところにも気が配られた造本に惹かれるなーと思うので。

今回も素敵に豪華な仕上がり!


この主人公「二人」の関係、作中では

この世に二つしかないバッグを、偶然持っていたもう一人の相手、みたいなかんじ

と表現されていたのが個人的な好きポイントです。


夢が夢を呼び、謎が謎を呼ぶノンストップサスペンス!


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