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タイムスリップコップ (ショートショート)

 殺風景な小部屋に通された老人はただ一人いる給仕に不快感を隠さない。

わしは百万を先払いしたがこんな粗末な場所でやるのか

給仕は皮肉には反応せず水が入ったコップを老人の前に置き、ポケットからスポイドを取り出し1滴入れた。

今入れたのは貴方の呼気から記憶遺伝子を取りだし特殊濃縮したものです


老人は驚く。コップから懐かしい母親の味噌汁の匂いがする。いや、コップも木製の椀に変化した。老人は涙ぐんで飲み干す…80年前の味…

 控室でその様子を見ていた付き添いの妻は怒る。60年連添い、味噌汁も作るが早世した姑の味に勝てぬのかと。
 そこへ例の給仕がきた。

奥様にもタイムスリップコップをどうぞ


スポイドの一滴が入るとコップは厚手のマグになつた。65年前の初体験後に恋人と飲んだ粉末ココアだ。その人とは夫と結婚後も続いた。妻は夫に怒る資格がないと悟った。

給仕は客の今後の人間関係の改善も料金に入っているから貴女のお代は不要と老人の妻に告げた。


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※ 『本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です』

ありがとうございます。