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60.ある朝の出来事

通勤の朝、いつもと同じ時間の電車に乗り、いつもと同じ道を歩く。電車のダイヤの都合で、職場の最寄駅にはベストな出勤時間より、20分ほど早く着く。以前は早めにタイムカードを押し、予定より早く業務を開始していたのだけど、なんとなく面白みに欠けているような気がしてきて、今では職場周辺を散策兼ね、ウォーキングしている。

歩く時間は、20分弱。のんびり歩いているので、その間の歩数は2,500歩程度。ウォーキングと言い難い程の、ちょっとした散歩。この時間に幾つかの発見があった。

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開店前のとある会社、ブラインドは下げているものの、ガラス窓越しにその隙間から内部がちらっと見えている。始業前に朝礼をしているのか、男女数名のスタッフが輪になって会話している様子が窺えた。またある日、同じように輪になったままで、ラジオ体操をしているではないか!広いとは言えない事務所の中、仕事着の大人たちが大きく腕を伸ばしたり、ぴょこぴょこと飛び跳ねている姿を見ると、なんだか微笑ましくなった。朝礼と共にラジオ体操をする会社、私には経験がないのだけど、実は一般的なのか。デスクワークで身体が凝ることを想定して、朝一に体操なんて素晴らしい。

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最寄駅のバスロータリーには、僅かながら植樹された木々たちが茂っている。近所に河川があるからか、鳩や雀、カラス以外の野鳥を目にすることが多い。冬鳥として印象が強い、白黒のセキレイ。秋から冬にかけて日本に渡来し、よく木の実を食べているヒヨドリ。こちらも渡鳥の一種、オレンジ色のお腹が可愛らしいジョウビキタ。初めて見る野鳥に出会うとわくわくして、特徴をスマホに打ち込んでリサーチ。少し目を配るだけで、新鮮な世界が広がっているなぁ、と実感させられる。

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朝、といっても、私が歩き出すのは9時を過ぎている。早朝には敵わないけれど、それでも日中より空気が澄んでいる気がする。周りに人がいないことを確認し、そっとマスクを外してみる。すぅ、と朝の匂いが入ってきた。あとは、季節の匂い、天気の匂い。マスクが必須の生活になり、空気の匂いを嗅ぐ機会が減ったのは、自分の中に僅かに残る野生の勘を鈍らせているようで。何にしても「新鮮」は美味しくて、輝いているけれど、これは空気も一緒なんだと、思い切り深呼吸をした。

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行動を変えた、たった20分。
自分だけの、ささやかな発見が嬉しい時間になった。凝り固まった頭で視点を変えることは難しいかもしれない。だけど、20分の行動なら変えられる気がして、ちょっとだけ自信を貰えた、朝の話。

おわり

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