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小説『覚醒』

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2020.3.11始動。2023.3.11終結。怪異とたたかう霊能者一家のおはなし。眠れぬ夜にマドロミを。
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#文学

覚醒illegal #1

覚醒illegal #1

此処、呆国での年間死亡者数は、現時点で平均して約143万人。中でも割合が高い死因に上がるのは、脳血管疾患か心疾患であり、それぞれ20%程度を占める。反して、車両事故による死亡者の割合は、3%にも満たない、比較的〈死〉から離れたものであった。

一ヶ月前に起きた凄惨な事件は、その例外だ。

事件の概要は以下である。

三月十二日、日没頃、神宿駅構内に突如異形の怪物が出現。数名の殉職者の屍を超えながら

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覚醒illegal #2

覚醒illegal #2

「あのさあ」
人通りの少ない寂れた商店街で、人を招き入れる気など毛頭無いような顔をしてヤニの匂いを漂わせている煉瓦造りの喫茶店の前に、珈琲の味も煙草の味も覚えぬ二人の少女が並んでいた。
「帰れよ、まじで」
ひとりは、くすみがかった赤茶色の長い髪の毛を片側に流して派手な柄のスカーフで結んでいる大人びた髪型で、相対してもうひとりは派手で明るい色を何色も束状に差し込んだ長い髪の毛を左右ふたつに結んだどこ

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覚醒illegal #3

覚醒illegal #3

由荼(ユダ)ちづるが助産師を志し始めたのは、17の女学生時代だった。
きっかけとなったのは、当時テレビで放送されていた育児のドキュメンタリー番組を観たことだと本人は記憶している。命が誕生する瞬間に感銘を受け、自分もその場に立ち合いそして手助けをしたいと当時の由荼ちづるは色めきだっていた。自身は結婚や家庭に興味は無かった。色恋沙汰にもどこか疎く、恋人を欲する気持ちもロクに生じず、その為他人に時間を割

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覚醒illegal #4

覚醒illegal #4

「霊能力のレベルを低下させたくなければ、肉体の純潔を維持せよ」
これは、呆国随一の霊能者である虚子が、四人の弟子に繰り返し伝えてきた教えだ。
肉体の純潔とは即ち、力を死霊や妖魔でないものには向けず、己の手を殺生の血で染めないこと、そして、異性あるいは同性との交わりを避け、貞操を捨てないこと、である。
教えを破り、肉体の純潔を失った霊能者は、力を衰弱させ廃人と化すか、穢れに魅入られ魔人と化すか。二つ

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覚醒illegal #0

覚醒illegal #0

死体遺棄業者の午後は忙しい。
殊に神宿地域を拠点とするならば尚更だ。
神宿のあらゆる事件や事故は、日没から夜半によく起る(同音異義ではあるが、熾る、と書き綴った方が本質を露わに出来得るか。殺意や憎悪、苦痛や憂悶が織りなす螺旋のその様は、まさに熾火の如く轟轟と燃えあがっているのだ)。
それにより生じた哀れな不遇の屍は、首謀犯や関係者の手により一時保管され、一本の電話あるいは一通の電報で死体遺棄業者に

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覚醒illegal #5

覚醒illegal #5

「いつまでも調子の良い傍観者でいられると思うなよ」
虚子の呈した苦言は黒子の脳裏に卵を産みつけ、それはすでに孵化して夥しい数の蟲が体内で蠢く。寄生した言霊の群れが黒子の肉体機能を奪ってゆく。
鼻血がどろりと垂れてきた。皮膚は高度な熱を帯び今にも蒸気を上げながら焼き切れてしまいそうだ。口腔内が異物感で充たされている。鏡で見なくとも舌触りで理解る。歯が増殖している。口いっぱいに拡がる痛みと痒みに幾度も

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覚醒illegal 〆close

覚醒illegal 〆close

死に損ないの藝術家が夜天に吼える。
あの色だ!
俺がサガし求めていたのはあの色なんだ!
神宿の上空に、溝の底の底の底からサラしあげた泥と反吐露と死霊の怨みを磨り潰し煉固めて精成したが如く喪失の黑を纏う肉塊の球が、ぷかりと浮かんでいる。
バララララバララララと翅音を鳴らす、呆国のシンボルを刻んだ戦闘機が、両眼に具えるヘッドライトで黑い標的を捉えた。
一人の兵士がドアを開け放ち、機内から身を乗り出した

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