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月の車輪 「 Mémorandum」

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私の創作物、エッセイを集めたものになります。 収集テーマは「寝読み本」 創作の深い海に潜りながら握り続けたペンの先は何処にあるのかを探していければと思います。
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記事一覧

025-38-8

笑って

笑って

笑って

花曇りの下

片手には借りてきた本

栞には貴方の写真

戻ってこいよ

花曇りの中から笑い転げておいでよ

22-49-901

忘れた頃に喉元から咲く

花冷えの叢雲

浅葱に浮かぶ月桂に

指を伸ばして大強盗

何夜も何夜も夢になる

幾度か起きてや部屋の底

幾度か起きてや

深空捧ぐ金色花

幾度か目にして手に取った

零れ落ちるる金剛花

幾度か起きてや海の底

気泡に溺れて

春の闇

創作について

何も言えないから

何もできないから

ひねくれているから

傷つけるのも傷つくのも怖いから

弱いから

書いていることしかできないんだよな

どうしようもないんだ

もうどうしたらいいのかすらわからないから

ただ今日も朝から晩まで原稿用紙を真っ黒にしている

私の創作はそうしたものの吐露で、
けして生き甲斐や、楽しみなどではなかった。

楽しみに変えようと思っても変えられなかった。
無理だっ

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車内音

許しが欲しいが
誰に頼んでなんの為の許しが欲しいのかは
わからなかった

ただ許されたかった

愛が欲しいが
誰に頼んでなんの為の愛情が欲しいのかわからなかった

ただ愛されたかった

ペンが欲しいが
誰に頼んで何に使うペンなのか
わからなかった

ただ与えられたかった

そんな夢ばかりを見ていた

風呂場

新しい石鹸を開ける時が何故か好きだ

あの柔らかな薫りが包紙をめくると
わたしの鼻先へ流れてくる、
あの感覚が好きだ

石鹸が消えていく時、
私は
寂しく感じたり、
時によれば
早く無くなってしまえと
泡立てる

そして消えたらまた
その事は忘れて
包紙をめくる

あぁ、私も人間なんだな。

湖岬

湖岬

自転車を漕いだ。湖沿いの深夜の路地を夜歩く蟻達を追い越して、
後ろには私の腹を抱くように掴まる亜麻色の髪が一人。
無機質に冷めきった路地の切れ目を渡ると月光の当たり方もやや変わって夜光虫の喧騒が嗚呼唯、よく見える。
砂防林の間からその様子を眺めて、夜風が私の前髪を引っ張る。
亜麻色の髪はまだ目を覚まさない。

この反対の岸には大層立派な大学病院がある訳だが、この静寂の中でその夜景が湖面に反射し、夜

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樹海

                      辺り一面は暗い樹木に囲われた。
時々廃車が見えるばかり、獣道はどこを走っても同じ景色が続いていた。
「どうして僕は」
ここに来たのだろうか。

壊れた山中の公衆電話の受話器を取ってみる。ひんやりとしたアスファルトは心地がよかった。
「もしもし。」
自嘲の笑みを浮かべて。
カビの匂い、いつかのアパートを思い出した。横には放置された自転車に洒落たサンダルの片

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縁

流れていく雲に手を伸ばそうが届かない

靉靆を眺めるばかりの
窓際の一輪の野花は

花弁を落とす

水をやる。

花弁を落とす。

薬をやる。

花弁を落とす

小さな灯火が最後に燃え盛るような八月某日

そこには散った花々の上に
蜉蝣がいた

虚構

虚構

虚構でしか生を描けない

虚構の中に愛情が宿る

虚構の中と早朝の喧騒に虚無透かし

足つけた生暖かい泥の上に寝て

湖面の月光が邪魔な目を包めば

想い出の狭間

孤独の平穏

愛と快楽

夜と人間の灯り

私は湖岬に一人

私の手を眺めても
体温のまま

雨粒眺めても

虚構の中でしか生を体感できない

「裸足」

彩られた珊瑚礁みたく読書灯の眩い部屋の中で自分の手の輪郭を透かしている。真っ黒なカーテンが深海みたいだ。
此処は誰も来ない。僕の場所。
外には大きな邸園があるけれど、大人達みたいに御茶を不味くするような話はしないで、僕は此処で天井の魚に笑いかける。
大きな天幕に覆われた僕の地球に、大きな鋏の絵画が一つ。

机にも僕の描いた鋏が一つ。
此処は終わらない夜更けの世界だ。鋏は必要がないからこの絵は後で燃

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