「ハードウェアのシリコンバレー深圳」に学ぶ−これからの製造のトレンドとエコシステム(読書メモ)

“日本人経営者版の「HARD THINGS」でした“

本書は「ハードウェアのシリコンバレー」と称される広東省深圳市において、第一人者として活躍するジェネシスホールディングス・藤岡淳一社長が、同市の変遷を辿りながら自身の取り組みを纏めた1冊となっています。

著者を知ったのはつい最近で、News Picksでのインタビュー記事でした。

中国の最前線で活躍する著者ならではのエピソードが印象に残ったため、この流れで本書も読むことにしました。他のビジネス書と比べるとページ数は少ないですが、その分内容が凝縮されており、読み応え十分でした

なかでも、
・モノづくりにおける中国の進化
・日本と中国の違い
・中国企業との付き合い方

は同じ製造業としてかなり参考になりました。

では、いつも通り印象に残った内容をピックアップします。

プロセスイノベーションによる中国の台頭

グローバルで見たときにはコスト競争力優位の流れは今も続いている気がします。多少良いくらいのプロダクトでは生き残りは難しいと感じます。

イノベーションという言葉はよく使われるが、実は大きく2種類に分けられる。新たな市場を作り出すような新規性のある製品の開発、いわゆる「プロダクト・イノベーション」と、製造工程の改革によるコストパフォーマンスの改善による「プロセス・イノベーション」だ。どちらのイノベーションが優位かは時期やジャンルによって異なるのだが、私が扱う電子機器の分野においては2000年代半ばから「プロセス・イノベーション」が優位な状況が続いていた。
その背景にあったのが深圳の発展だ。私がエグゼモードでフル活用したODM企業や貼牌という手法は、劇的な低価格と、そこそこの品質の製品を作り出すことを実現する「プロセス・イノベーション」だった。世界を席巻した山寨携帯、山寨スタイルの製造も「プロセス・イノベーション」だろう。
中国の台頭と反比例するように 、日本メ ーカ ーは存在感を失っていった 。彼らとて無策だったわけではない 。この間も着々と新たな素材や部品の開発を進めていたし 、素晴らしい製品を生み出していたと思う 。ただ 、モノはすばらしくても 、売れるものではなくなっていた 。尖った製品や高品質な商品よりも 、コストパフォ ーマンスに優れたもののほうが選ばれる時代となっていたのではないか 。

中国企業と取引する上での注意点

実体験を踏まえてなので説得力が違いますね。参考になる点だらけです。

(1)すべてを性悪説で考えなければならない
指示通りのものができない、約束が守られないのは当たり前のこと。向こうができない、やってくれないことを前提に計画しなければ必ずや痛い目にあう。「信頼できるパートナーを見つけたから安心だ」などという性善説の考えではやっていけない。信頼できるパートナーだと思っても、トラブルが起きることを前提に行動するべきだ。
(2)現金の着金がすべて
中国での取引は、現金かつ前金がすべてである。契約書も発注書も意味がない。部品を買うのも、設計を依頼するのも、ともかく手付金を支払わなければ始まらないのだ。そして1度払った金は契約が履行されたかどうかにかかわらず、決して返ってこないことも肝に銘じなければならない。
(3)極度に要求を押し付けない
中国の企業に対しては 1 0 0点を求めてはならない 。到達可能なゴ ールを明示しなければならない 。とてもできそうにない目標 、あるいは割に合わない要求だと向こうが判断した場合 、向こうは逆ギレするなりトンズラするなり 、ともかくすべてをご破算にしてしまうことを覚悟しなければならない 。
(4)決して偉そうにしてはならない
中国人はメンツを重んじる 。こちらが偉そうな態度を取ったり上から目線で話してしまうと 、いつ地雷を踏むか分からない 。相手のメンツを潰さないように常に配慮し 、こちらは下手に出てお願いするぐらいの態度で丁度いい 。
(5)下手に値切ってはならない
日本のビジネスマンは見積もりを見ると 、まず値切ろうとする 。ジェネシスの顧客でも 、見積もりを出すと 「もう少しなんとかなりませんか 」などという方が多い 。ボッタクリ価格の土産物屋ならばともかく 、受託製造の現場で根拠もなく値切ろうとするのは危険だ 。向こうは値段を下げてくれるかも知れないが 、その代わり部品のグレ ードを下げるなど 、どこかでコストカットをしてくるだろう 。どうしてもその価格が飲めないというのならば 、発注数を増やす代わりに単価を下げる 、付属品を減らす 、要求している品質を下げるなど条件を細かく見直すべきだ 。さもなくば 、なにげないお願いで節約した以上の損害を被るだろう 。中国人とのビジネスは 1回 1回が勝負 。向こうは 「この先の付き合いを考えてサ ービスする 」などという観念は存在しない 。 1回ごとの取引で必ず利益を出そうとしてくるのだ 。

歴史が作り上げた深圳のエコシステムとその未来

深圳が「中小企業が生き残るために必死に動き回った結果の集合体」であることに驚いたと同時に、だからこそ、時代の流れにもいち早く対応し変化できるのかなとも思いました。

安価な労働力だけがリソ ースだった深圳は時代とともに変化し 、今では 「イノベ ーションの都 」と讃えられるまでにいたっている 。
興味深いのは 、この進化を支えたのが天才やハイレベルの技術者 、あるいは国家の産業政策ではなく 、見よう見まねで作られた雑な工場だったり 、怪しげな電子機器を作っていた草の根の企業家の集合体によって作られたという点だ 。
少なくとも深圳のエコシステムは最初から計画されて作り上げられた人工林ではない 。個々のプレーヤーが自分の利益のために 、生き残るために必死に動き回った結果の集合体であり 、混沌としたジャングルだ 。
今後の深圳はどう変わっていくのだろうか 。 1つの方向性は 、頭脳重視のイノベ ーションだ 。深圳の製造力を求めて中国内外からテクノロジ ー企業がこの地に進出している 。有力企業に就職しようと優秀な人材が集まった 。彼らの多くは起業の夢を抱いているだけに 、今後さらに多くのテクノロジ ー企業が誕生するはずだ 。
対応できない企業は消えていくが 、努力によって付加価値を上げられる企業は生き残る 。その新陳代謝はもうしばらく持つというが私の考えだ 。なにしろ深圳に代わりはない 。大企業ならばサプライヤ ーごと引き連れて移動できるかも知れないが 、中小企業にとっては必要なものすべてがコンパクトに集まっている魅力はなにものにも代えがたいものがある 。

日本のスタートアップ、製造現場、行政に伝えたいこと

辛辣ではありますが、日本と中国の違いはこのメッセージに集約されてる気がしました。

ダメ元でもいいから突撃する精神を持っているかどうか 、生き残るためにすべての手段を尽くす根性があるかどうか 、それが問われている 。

まとめ

ここ数十年での深圳の台頭スピードも衝撃的でしたが、この変化に対応しきる著者の胆力にただただ脱帽でした。

また、製造業でグローバルに成功するためには、なにより覚悟が大事と痛感しました。

製造業に携わる人におすすめしたい1冊です。

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