見出し画像

上野の森で国宝を見る 「国宝 東京国立博物館のすべて」 前編

 上野にある東京国立博物館(トーハク)で開催されている特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」に行ってきました。
 トーハクは、上野公園の西郷像のある場所を手前とすると、一番奥にある博物館です。今回の特別展では、博物館の創立150年を記念して、国宝89点を始めとする所蔵品中の逸品を展示しています。

私とトーハク

 私にとってトーハクは、特別展で何度か訪れただけの馴染みの薄い博物館でしたが、森鷗外が総長を務めていたと知って、改めて訪問したくなりました。

国宝展が開催されている平成館の前庭が元鷗外の総長室。


 それで、トーハクにいつ行こうかと考えていた時に、所蔵の国宝全部を展示する特別展があると知り…国宝全部ということは、渡辺崋山の絵を見ることができるので、この特別展を楽しみにしていました。

おすすめ展示品

 トーハク選りすぐりの逸品が揃った特別展でしたが、崋山の絵以外で特に心に残った作品を挙げてみます。

『平治物語絵巻 六波羅御幸巻』

 十数巻あった絵巻のうち、現存するのは四巻のみ(一巻は裁断されて点在している)。トーハクが所蔵する六波羅御幸巻では、当初藤原信頼側だった二条天皇が六波羅にある平清盛邸へ向かう場面ーー乱の潮目が変わる瞬間が迫力の筆致で描かれていました。刀を抜いた武人たちに守られて六波羅へ向かう二条天皇。これがクーデターというものなのかと実感しました。
 高校の資料集などにも抜粋が載る有名な絵巻ですが、展示会では、絵巻全体が鑑賞できます。

雪舟『秋冬山水図』 長谷川等伯『森林図屏風』

 若い頃から興味が欧米文化に偏りがちで、日本画、特に水墨画のことは全くわからないのが残念です。わからないなりに、この二点には圧倒されました(多分。そんな気になっているだけかも)。

『春冬山水図』の秋の部分。
『森林図屏風』の右側。

狩野長信『花下遊楽図屏風』

 上記の水墨画とは違い、この屏風は当時の人々の楽しげな姿が描かれており、とてもわかりやすい作品でした。フェルメール等のオランダ絵画を見る時と同じ、楽しく幸せな気分で鑑賞できる作品です。日本にもこんな絵があったんですね。

『花下遊楽図屏風』の一部。

『古今和歌集』『万葉集』『医心方』

 歌集二つは平安時代(11・12世紀)の写本。前にも別の写本を見た気がするのですが、最近noteでこの二集についての記事を読んだので、新たな視点で見ることができました(noteの共時性を感じた一瞬でした)。

 『医心方』は12世紀に編集された日本最古の医学書です。多分、欠けのない原本は日本にこの一冊しかないはず。森鷗外の史伝小説『渋江抽斎』の主人公は『医心方』に注釈をつけて復刻する事業に携わっています。朝廷の典薬頭・半井氏が長年秘蔵してきたのを、幕府がようやく借り出し、抽斎たちに作業させたそうです(1980年代に国が半井氏から購入して国宝になった)。ーー最初に復刻事業の話を読んだ時は、文献学的アプローチだと思っていたのですが、どうやら、幕府は実用書として利用するつもりだったようで。12世紀の医学書が19世紀に実用書として使われるとは、日本の漢方医学には数百年間進歩がなかったのだろうか? と『医心方』の実物を見ながら考えてしまいました(医学史に詳しい方に教えを請いたいです)。

『埴輪 挂甲武人』

刀剣19本

 刀剣ブーム、続いていますよね。若い女性と刀や槍の話題で盛り上がる日が来るとは想像もしませんでした。といっても、私は刀剣の様相には全く興味がないのですが、「岡田切良房 織田信雄が家来の岡田某を切ったためにこの名がついた」(信雄は信長の不出来な息子)、「長船景光 山田朝右衛門が明治天皇に献上」(山田浅右衛門は江戸時代の首切り人)といった来歴を読むだけでも十分楽しめました。
 平安時代〜鎌倉時代に作られた刀が戦国時代に武将の手に渡り、最終的には皇室や徳川家に献上されるという来歴が多かったです。国宝クラスの刀になると、武器というよりは、美術品、献上品だったんですね。

以上が国宝のおすすめ展示品。国宝以外にも、素晴らしい展示品がありました。

尾形光琳『風神雷神図屏風』

 国宝になっている俵屋宗達版の模写(宗達版は京都の国博にあります)。模写なのに、重文になっているのもすごい。更にこの尾形光琳版を模写した酒井抱一版が出光美術館にあるので、いつか見てみたいです。

これは俵屋宗達版の雷神。光琳版を探せなかったので代わりに。

『遮光器土偶』

松方コレクションの浮世絵

 松方コレクションといえば、西洋美術館にあるゴッホやモネの絵が有名ですが、浮世絵も収集していたんですね。写楽の浮世絵を見たのは初めてです。このコーナーだけでも、来た甲斐がありました。

『三代目大谷鬼次の江戸兵衛』

上野戦争(彰義隊vs新政府軍)の砲弾

 新政府軍側の砲弾(不発弾?)が柱にのめり込んだもの。幕末ファンには必見の展示でした。

『くちなわ物語』

 昭和15年にトーハクで開かれた正倉院展の模様を描いた絵巻。大人気の展覧会だったようで、トーハクから西郷像まで行列が続く様が描かれていました。行列がくちなわ(蛇のこと)のように続いているので、『くちなわ物語』になったそうです。アメリカとの戦争が始まる一年前とは思えない、のどかで微笑ましい光景ーーそれなのに、その五年後には東京は焼け野原になってしまうのです…。

菱川師宣『見返り美人図』

 会場の出口には見返り美人が。この絵と金剛力士像だけ、写真撮影ができます。

『見返り美人図』トーハクで撮影したもの。


 特別展は12月11日まで。時期によって入れ替えがあります(刀剣は全期間展示)。事前予約制で、一時間単位で入場時間を選ぶ方式です。ソールドアウトの時間帯も多いですが、私は直前にキャンセル分を見つけて、土曜のチケットを購入しました。吉沢亮さんの音声ガイドも借りられるので、美術や歴史の知識がなくても、楽しめそうですよ。


 


 
 


読んでくださってありがとうございます。コメントや感想をいただけると嬉しいです。