見出し画像

ありがたいお言葉

僕は大学受験をせずに、面接をするだけの、スポーツ特待生で、広島のとある大学に入学した。

授業料も4年間半額なので、親孝行だと我ながら思う。

高校が進学校だったので、「あの大学なんて」とクラスメイトからバカにされたこともあった。

わかってないなと僕は今でも思っている。

僕は大学に、勉強をしにいったわけではない。(大学は勉強をする場所だということは、理解している)

大学で陸上競技を続けたかった。そして、広島の大学で陸上競技を続けるには、最高の環境が、僕の母校になる大学だった。

その母校には、広島から世界陸上のリレーに出場したり、200mでオリンピックに出場した7つ上の偉大なる大先輩がいた。

僕が母校の大学入学を決めたのは、大先輩の存在がとても大きかった。

大先輩は、100mを10秒31、200mを20秒59で走る方で、そこら辺のイケメン俳優よりもイケメンだった。競技場では女性からよく黄色い声が聞こえていた。

僕の高校3年の夏、インターハイに出場する前に、縁あって大先輩と一緒に練習をさせて頂いた。

信じられない速さだった。同じ人間だとは思えない。

大人と子ども、スポーツカーと軽自動車、月とスッポン…

どの言葉も当てはまるような、次元の違う走りを見せつけられて、僕の世界は広がる。

この時に、大先輩と一緒に走った経験が僕の心に今でも残るほどのインパクトがあった。

大学入学時には、大先輩は大学院生から、大学の職員になっていた。いつも夕方まで仕事を終えた後で、そのまま競技場へ向かい練習をされる。

ストレッチや筋トレから始まり、坂やトラックを走られた。

その一つ一つの動きを、目で追った。


たまに僕ら後輩の練習に交じることもあったが、次元の違う走りを、常に僕たちに提供してくださる。

僕たち後輩一同は、もちろんみんな尊敬していたが、あまりにも偉大なる経歴と、寡黙に練習をされるので、気軽に話しかけられなかった。

お酒が入ると面白いらしいという噂があったが、そもそも一緒に飲む機会もなく、あくまでも噂であった。

もちろん僕も、仲間と同じように自分から話しかける勇気はない。

しかし、何故かいつも大先輩から話しかけてくださり、何気ない話をして頂いたり、僕のレースの結果などから祝福の言葉を頂き、他の仲間よりも若干の優越感を感じてた。

とはいえ、本気で憧れている方とお話をしているので、毎回緊張してしまう自分がいる。

そうやって大学陸上部での生活を続けていた3回目の冬、4年生の追い出しコンパがあった。

大学陸上部の飲み会の中でも一番、オフィシャルな飲み会で、監督、部長、顧問、その他お偉いさんがいる中、珍しく大先輩がOB兼大学職員として参加される。

その日の大先輩は、お酒が入っているので、陽気で、饒舌だった。

自分から後輩の元へいき、色々とお話をされる。

今日の大先輩はいつもと違うということに気が付き、みんなが輪になって大先輩とお話をする。

後輩一同にとって大変珍しく、貴重な時間だった。

大先輩は、後輩一人一人に、「○○!お前の走るフォームはきれいだ!俺はお前のフォームが好きだ。」、「▲▲!もう少し力を抜いたらもっといい!」とアドバイスを送る。

まず自分たちのことを見てくださっていたことが嬉しく、さらにアドバイスを頂くことに一人一人感激していた。

僕もその輪の中にいたので、どんなアドバイスを頂けるのかとドキドキしていた。


そして最後に、大先輩が僕の目を見てくるぞくるぞと待った


大先輩は言った。


「あみちゃんは俺のペット♪」といいながら、僕の頭を撫でて、ヨシヨシされる。


大先輩はお酒が入っていた。


情報量が多過ぎて理解できなかったが、


まずあだ名で呼んでいただいたのが、始めてで、

何故か今まで大先輩から話しかけられていたのもなんとなくわかるけど、ペットって!


いつもの寡黙な大先輩はどこに。


そして、アドバイスは?


などお酒に酔いながらも、僕は色々な情報を整理する。

 
そして、追い出しコンパがお開きになり、お店を出ても、引き続き大先輩は僕の頭をヨシヨシされる。肩まで組んで下さる。


イケメンかつ偉大なる大先輩からのヨシヨシに、一部の、女子部員から羨ましいという声があがったが、満更でもなく優越感があった。

そして最後まで、ありがたいお言葉は頂けなかった。

でも、今まで、可愛がって頂けたことがわかったのはとても嬉しかった。

僕は大学を卒業するとともに、陸上競技も引退した。

それなのに、縁があるのか、毎回どうしてここでと思うような意外な場所で、大先輩と再会する。

不思議なもので、陸上部をやめてからの方が大先輩と色々な話ができた。

再会するたびに、大先輩は大学職員から大学准教授、陸上部コーチ等ステップアップされる。

先日、家の近所のイオンモールで大先輩と再会したが、相変わらずのアスリート体型で、ツイストパーマをかけられて、相変わらず信じられないようなイケメンだった。


 とても42~3才の年齢には思えなかった。

見た目はまだ27才で、時を止めたのではないかと思わせる。


僕も大先輩のような、イケイケな年の重ね方をしたいなと、また新たな憧れを抱く。


この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?