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iNa_短編小説まとめ

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自分自身で書いたnoteの短編小説のまとめです。色々試しながら書いているので、文体とか内容とかトーンとかバラバラです。色々読んで見ていただけたら嬉しいです🐄🐄🐄
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self service

self service

 昨日は雨が降っていたような気がする。昨日だったような気もすれば一昨日だったような気もしてくる。それとも今日なのかもしれない。底の見えない深い沼のような濃い緑色の遮光カーテンに閉じられて外の様子はわからない。あのカーテンを開ければ済むことだけれどそのためだけに腰は持ち上がらない。検索してサッと調べればすぐにわかることなのに別にそこまで知りたいわけでもないから、天気予報とは別に今日は誰がどんなことを

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枠内

枠内

 目の前にいたその女は画面とは別物だった。
 画面からそのまま飛び出た姿を何度となく思い浮かべて、特に昨日の夜はじっくりと食い入るように眺めて少し長めに慰めていただけに、期待と現実との溝は深すぎて思わずスマホの厚みを確認したけれどいつも通り薄っぺらくて軽い。
 液晶が薄かったからなのか、夜になると眩しいくらいの光源だからなのか。ほんのりと内側に赤らみがあるようでキメの細かい色白の肌に、頬のあたりが

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流れていかない

流れていかない

 指先一つで、想い出は消えました。
 桜の開花宣言が出され春がきたと言われましたが、曇り空に包まれた海辺では冷たい風がどこからか運ばれてきて、液晶パネルも霜みたいに冷たくて画面を触る私の指はかじかんで実は消すのに結構時間がかかりました。別に一瞬で終わる作業なのだから家で暖かい布団にくるまりながらでもいいのではとあなたは思うかもしれません。その通りでしょう、私ですらなんでこんな寒い思いをしながらスト

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