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掌編小説

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【無料マガジン】 私の書いた掌編小説を収録していきます。
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#風刺

籠宮胡蝶は何故死んだのか?

籠宮胡蝶は何故死んだのか?

 籠宮婦人から胡蝶嬢が死亡したと連絡を受けたのは、診療所の開業時間直前の出来事である。

 電話口で狂乱気味だった婦人を宥めつつ、私は可能な限り事の詳細を聞き出した。大まかな状況を把握すると、必要な検死道具類をくたびれた革製の鞄に手早く詰め込む。
 そして、早番の看護士達へ今日の開業時間を少しばかり──つまり私が帰るまでだが──遅らせるように指示し、愛車へと飛び乗ったのだ。
 籠宮邸までは車で片道

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魚眼ノ箱庭

魚眼ノ箱庭

 満足な環境であった。

 水質は澄み、酸素は潤沢に湧いた。

 適度な水草がそよぎ、戯れる岩礁も据えられている。

 空腹を覚え始めた頃には水面から餌は降ってくるのだから、此処へと移り棲んでからは飢えた覚えも無い。

 日々の糞尿で少しばかり水質が濁りを生じたとしても、不思議と朝には新たな快適と再生するのだから気にする事でもなかった。些か警戒を覚えるとすれば、その予兆には大きな地震が起こる点だが

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