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鈴木竜太教授の経営組織論を読む

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「法と経営学」の観点から、「経営組織論」を勉強します。テキストは、鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)です。教授にご了解いただき、同書で示された経営組織… もっと読む
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2021年6月の記事一覧

経営組織論と『経営の技法』#338

CHAPTER 12.4:組織変革を妨げるもの ③未知への不安  大きな組織変革が難しい理由は、そもそも変わることに対する心理的な抵抗感にもかかわります。変わることへの心理的な抵抗感は、3つのことから生まれます。  1つは、未知のものへの恐れです。組織の変革は、それまでの知識を不安へと変えてしまいます。たとえば、海外などこれまでと違う土地での生活が不安を感じさせるのは、それまでの生活で培った知識が通用しないと感じられるからです。組織においても、組織変革が行われることで、今まで

経営組織論と『経営の技法』#95

CHAPTER 4.3.2:マトリクス組織と一部事業部制組織(②一部事業部制組織)  続いて、一部事業部制組織を紹介します。一部事業部制組織は事業部制を基盤に職能別組織の良さを取り入れたものと考えることができます。図4-5が一部事業部制組織の一例です。一見すると事業部制に見えますが、いくつかの点で典型的な事業部制とは異なります。 (図4-5)一部事業部制組織  第1の異なる点は、基礎研究部門など各事業部が共有できる部門を独立させている点です。事業部制の考え方に則れば、基礎研

経営組織論と『経営の技法』#337

CHAPTER 12.4:組織変革を妨げるもの ②強固な組織文化  もう1つは、そもそも強固な組織文化や価値観を持っている組織では、これまでと異なる新しい考えが生まれにくいことです。組織文化の強さの利点は、組織メンバーの多くが同じような価値観を持つことで、モティベーションが高まること、細かな指示伝達がなくとも柔軟に組織の価値観に沿って行動をしてくれること、コミュニケーションがしやすいことなどがあります。  しかし反対に、みんなが同じような考え方をしていることで、これまで示され

経営組織論と『経営の技法』#336

CHAPTER 12.4:組織変革を妨げるもの ①成功体験  組織変革は、その規模が大きくなればなるほど、能動的に進めていくことが難しくなります。過去に成功したことがある企業や強固な組織文化を持つ企業は、特に難しくなります。その理由は、第6章でも触れたように大きく2つあります。  1つは、環境の変化によって、自分たちのこれまでの組織文化や価値観が成功につながらなくなったことに気づきにくいからです。過去に成功例がない大きな企業はありません。何らかの事業の成功があったからこそ、企

経営組織論と『経営の技法』#335

CHAPTER 12.3.4:4つの変化の操縦モデル ③まとめ  私たちは、組織とは合理的で安定的な存在であると考えがちです。  そのため、組織を変えるということは、能動的にそして大きく変えなければならないと考えがちです。もちろん、それも組織変革のあり方ですが、能動的ではなく、受動的に組織が変革していくこともありますし、能動的であっても小さな変革もありえます。変革は変革それ自体が 目的ではありません。それらを長期的な成功をもたらす組織変革につなげることが、組織変革のマネジメ

経営組織論と『経営の技法』#334

CHAPTER 12.3.4:4つの変化の操縦モデル ②それぞれの意味  能動的で小さなレベルの変革には、これまでの仕事の手順や、やり方などの刷新や改善、あるいは技術のアップデートなどがあります。生産現場でのカイゼン活動は、このようなタイプの変革になります。  受動的で小さなレベルの変革には、状況の変化に巻き込まれるような形での変化や適応があります。たとえば、国の制度によって食の安全基準が変われば、それに対応して企業組織も安全基準の見直しをしなくてはなりません。一方、受動的

経営組織論と『経営の技法』#333

CHAPTER 12.3.4:4つの変化の操縦モデル ①全体の意味  このように見てくると、組織変革のあり方も見方によって異なることがわかります。安定的な状況を打破するような組織変革では、組織変革は大きく急進的なものになります。そのためにトップとミドルが協力して大きな力で組織を変えていくことが求められます。一方で、常に変化している状況での組織変革は、小さな変化の繰り返しによってなされます。それは環境からの要請でもあり、組織として環境に対応する結果でもあります。どちらにせよ、常

経営組織論と『経営の技法』#332

CHAPTER 12.3.3:変化に対応する ⑥対応その5 急流に身を置く  また、もう少し別の言い方をすれば、常に組織を急流状態に置くことで、組織が変わり続けていくことを促すこともできるかもしれません。組織の中を秩序立てようと考えるのではなく、組織の中に意図的に混沌を生み出していくことも、組織変革の1つのアプローチということができるかもしれません。  ホンダはもともとは二輪車の製造から始まりましたが、自動車の生産を始めてすぐに世界的な自動車レースであるF1に挑戦しました。当

経営組織論と『経営の技法』#331

CHAPTER 12.3.3:変化に対応する ⑤対応その4 小さな変化  4つ目は、小さな変化でも大きな変革につながることです。どんどん進む急流では、舵の角度を少し変えただけでも、流れに乗っていく間に全く異なるルートを進んでいってしまいます。同様に、常に環境が変わっていくような状況にある組織では、少しの変化が後の大きな変化につながることが多くあります。  たとえば、人材募集の際の条件を変えることで、これまでと全く異なるタイプの人材が集まり、彼らが即戦力として活動していく中で組

経営組織論と『経営の技法』#330

CHAPTER 12.3.3:変化に対応する ④対応その3 失敗を恐れない  3つ目は、失敗を恐れず失敗から学ぶことです。急流の状況では意思決定において、事前に正解を見つけることは難しくなります。たとえ見出すことができたとしても、その正解も環境の変化によって、次の瞬間には正解かどうかわからなくなってしまいます。私たちは暗闇の洞窟で歩くときにはどうするでしょうか。ちょっとずつ歩を進めて、周りを探りながら歩くのではないでしょうか。少し足で探ってみて前に穴がありそうだったら、別の方

経営組織論と『経営の技法』#329

CHAPTER 12.3.3:変化に対応する ③対応その2 自己組織化  2つ目は、そのうえでの自己組織化が重要になります。自己組織化とはマネジャーなど組織の上位者が、指示を出して組織をコントロールするのではなく、組織メンバー自らが自分たちを律し、管理し、協働しようとすることです。サッカーでは、作戦などはあるとしても、プレー中は基本的には選手たちが敵の様子に対応しつつ、味方同士連携をして勝利をめざします。事前の作戦は監督など選手以外のメンバーも含めて対策を立てますが、そのとお

経営組織論と『経営の技法』#328

CHAPTER 12.3.3:変化に対応する ②対応その1 動き続ける  1つ目は、均衡状況を作ろうとしないことです。つまり、先のように安定した状況を生み出そうと考えないことが必要です。なぜなら、組織に安定した状況を作り出しても、それはまた環境の変化によって安定的ではなくなってしまうからです。  むしろ、絶えず変化をすることを促すことのほうが、結果として組織の中の混乱を少なくすることにつながります。自転車は漕ぐことで安定していき、スピードを落とすほど安定感が失われていきます。

経営組織論と『経営の技法』#327

CHAPTER 12.3.3:変化に対応する ①日々変化する状態  変革には、もう1つの見方があることを述べました。これまで説明してきた穏やかな日常の見方では、安定運転をしている凍結の状態から「解凍→変革→再凍結」と再び安定運転をする状態に戻すのに対して、もう1つは、実は日々変革の波が起こっている状態だとする見方です。  改めて述べれば、この状態では、安定した予測可能な状況は存在しません。これまでの考え方が通用しなくなることなど、旧来の常識が崩れることは、例外的な出来事ではな

経営組織論と『経営の技法』#326

CHAPTER 12.3.2:古典的組織変革のプロセス ⑩再凍結その4 担い手の登場  このように組織変革における役割の異なる担い手がいることが、一方で問題となるケースもあります。たとえば、ミドルはトップのサポートがないために突出しても、組織の中で孤立してしまうと思っているのに、トップはミドルがなかなか突出してくれないと思い、両者の間でお見合い状態が続いてしまうことがあります。  そう考えると、役割を果たすだけでなく、トップとミドルの間でより良い連携をとることが組織変革を進め