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経営組織論と『経営の技法』#334

CHAPTER 12.3.4:4つの変化の操縦モデル ②それぞれの意味

図12-3

 能動的で小さなレベルの変革には、これまでの仕事の手順や、やり方などの刷新や改善、あるいは技術のアップデートなどがあります。生産現場でのカイゼン活動は、このようなタイプの変革になります。
 受動的で小さなレベルの変革には、状況の変化に巻き込まれるような形での変化や適応があります。たとえば、国の制度によって食の安全基準が変われば、それに対応して企業組織も安全基準の見直しをしなくてはなりません。一方、受動的で大きなレベルの変革には、企業の存亡につながるような市場や環境の変化への対応があります。
 たとえば、東日本大震災はさまざまな企業組織に甚大な影響を与えましたが、その中でも原子力発電所の事故は、日本の国民や政府の電力に対する考え方を大きく変え、日本の電力会社に組織の存亡にかかわるような変化を求めることになりました。
 そして、能動的で大きな変革は、いわゆる人員整理や革命的な組織変革などが挙げられます。カルロス・ゴーンによる2000年代の日産自動車のV字回復や1980年代にジャック・ウェルチが行ったGEの組織変革など、よく組織変革で挙げられる事例は、だいたいがこの能動的で大きな変革に含まれるでしょう。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』284頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 上記本文では、4つの領域それぞれについて具体例をつかって説明されています。
 いずれも会社組織が変化するもので、どこがどのように変わるのかは、それまでの会社の組織や与えられる影響の内容・インパクトの大きさなどによって個別に判断することになります。
 しかし、例えば能動的で大きな変革をする場合と、同じく能動的だが小さな変革をする場合とでは、後者であれば従前の組織を大幅に変える必要は無いだろうが、全社であれば組織を根本的に変えなければならない場合が多くなるでしょう。
 また、同じ大きな変革をする場合でも、能動的に行う場合と受動的に行う場合とでは、前者の方が会社側に主導権があるので計画的に対応できるのに対し、後者の場合には状況の変化が先に生じてしまっているので計画的に対応できる部分も限られますから、変革の方向性を定めたり、経営や従業員のベクトルを合わせたりする作業と変革作業を並行して進めなければならない場合が多くなるでしょう。外的な影響により経営と従業員が危機感を共有し、一致団結できるかもしれませんが、逆にそれまでの歪みや亀裂がより大きくなってしまうかもしれませんが、このような影響を見極めるまでのんびりできるわけではないので、影響を見極めながら変革も進めなければならないのです。
 このように、大雑把な概念は、大きな方向性を把握することに役立ちます。もちろん、ディテールの設計次第でさらに多様なバリエーションが生じますし、結果的に小さな変革の方が大きな変革よりも大変だったということも生じるでしょう。
 けれども、会社の中で小さな戦術レベルでの議論に夢中になってしまい、大きな方向性について認識が共有されておらず、実際にプランを導入して実施し始めたところで根本的な方向性での認識のずれが露呈することがあります。大きな方向性や、根本的な状況認識などについて認識を合わせておくことは、流動化しやすい土壌をしっかりとした地盤にしたうえで建物を建てることに例えることができるでしょう。そして、一見すると当たり前のように見えるこのような大雑把な整理が、それぞれの会社の状況や進むべき方向性を共有するうえで非常に有効なのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から投資対象である経営者を見た場合、経営者は市場での競争に長けているだけでなく、その競争に勝ち続けられるように会社組織を作り上げ、磨き続ける能力が必要です。スポーツ選手に例えれば、競技に必要なスキルを高めるだけでなく、そのために必要な体作りをする能力が必要であり、トレーニングの内容や食事、睡眠時間等の管理まで必要となります。
 この観点から見た場合、会社組織の変革はスポーツ選手の体作りの問題であり、その体質や体格を変えていくことになります。そして、組織が大きくなるにつれてその変革は難しくなっていき、経営者の号令だけで実現できなくなっていきますから、ここで紹介された4分類などの大きな整理は、経営者にとっても重要なツールとなるのです。

3.おわりに
 一見すると、当たり前のことしか言っていません。
 けれども、当たり前と思われることの方が、多くの場合奇抜に感じることよりも実態にあっていて役に立つことが多いでしょう。
 もちろん、一般的な汎用性の高いロジックはうまく当てはまらない場合もそれだけ多くなりますから、一般的で汎用性の高いロジックに対する例外の方が適切な場合も存在します。そのような例外的なロジックは、汎用的なロジックの外延を明確にしていく意味で有用です。しかも、例外的な事象は比較的狭い問題ですが、その分非常に具体的でリアルな問題提起となりますから、とてもインパクトがあり、説得力があります。
 しかし、そのことで例外的な事象が全てに普遍的に適用されるわけではありません。抽象的でつかみどころが無いかもしれないが、長い時間をかけて広い領域で普遍的な共通の理論として定着してきたものの方が適用される範囲が広いだけでなく、理論の信頼性や安定度も高くなります。
 このような、一般的で抽象的なロジックと、リアルで具体的だが適用範囲の狭いロジックの役割を見抜いて使いこなすことが重要となります。ここで検討した4つの分類は、前者のろりっくであり、その有用性と限界を理解するようにしましょう。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。




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