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鈴木竜太教授の経営組織論を読む

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「法と経営学」の観点から、「経営組織論」を勉強します。テキストは、鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)です。教授にご了解いただき、同書で示された経営組織… もっと読む
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経営組織論と『経営の技法』#345

CHAPTER 12.4:Column パワー構造の変革の難しさ ⑤まとめ  組織変革は元来難しいものですが、このパワー構造の変革は特に難しいものです。皆さんの組織においても、組織変革をしたように見えて、実際はこのパワー構造が何も変わっていないことは、少なくないのではないでしょうか。 【出展:『初めての経営学 経営組織論』288~289頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】  この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019

経営組織論と『経営の技法』#344

CHAPTER 12.4:Column パワー構造の変革の難しさ ④理由その3 パワーの制度化  最後は、パワーの制度化です。これは、パワーの構造が固定化すると、そこにパワーがあることが当たり前になり、組繊で起こるさまざまなことが、パワーのある部門や人々にとって有利な価値観や行動規範が支配的になっていきます。たとえば、江戸時代の初期では、まだ徳川家が諸国の大名に号令をかけることに不服であった大名も少なからずいたでしょうが、江戸時代も中期以降になれば、そのような思いを持つ人はほ

経営組織論と『経営の技法』#343

CHAPTER 12.4:Column パワー構造の変革の難しさ ③理由その2 パワーの自己強化  2つ目は、パワーの自己強化です。パワーを持つ部門や人は、自分たちの部門により多くの人材を集めることができますし、それらの人々にとって魅力的な報酬をパワーがない部門よりも多く用意することができます。結果として、優秀な人がそこに集まり、パワーは拡大していきます。 【出展:『初めての経営学 経営組織論』288頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】  この「経営組織論」を参考に、『

経営組織論と『経営の技法』#342

CHAPTER 12.4:Column パワー構造の変革の難しさ ②理由その1 コミットメント  パワー構造が変わりにくい理由は、パワー構造が固定化する傾向があるからです。それをもたらすものとしてはコミットメント、パワーの自己強化、パワーの制度化の3つの要因があります。  コミットメントは、過去の意思決定に縛られること、特に成功した意思決定に縛られることを指します。たとえば、これまで多くの投資をしてきたがなかなか目が出ない事業があるとき、過去の投資分があるために、「もう少し投

経営組織論と『経営の技法』#341

CHAPTER 12.4:Column パワー構造の変革の難しさ ①何が難しいか  組織が変わることは非常に難しいことです。それは何もないところから組織を作るわけではなく、すでにある組織を変えていくことに大きな理由があります。なぜなら、組織が変わることでこれまで得られたものが得られなくなる人々が、変わることに抵抗するからです。  その1つが、パワー構造と呼ばれるものです。たとえば、今までそれほどパワーを持たない事業分野において大きなビジネスチャンスができたとき、本来であればそ

経営組織論と『経営の技法』#340

CHAPTER 12.4:組織変革を妨げるもの ⑤恐怖心  3つ目は失うことの恐怖心です。組織にある程度長くいる人であれば、地位やパワー、人脈、評判など、さまざまな無形のものを組織の中で持つことになります。それが現在の組織体制で得られたものであるとすれば、組織が変わることで失ってしまうものもあるかもしれません。  たとえば、戦国時代や幕末など戦乱時には武力があることは、その人の大きな利点となりました。しかし、平時になってしまえば、そのような武力はほとんど評価されなくなります。

経営組織論と『経営の技法』#339

CHAPTER 12.4:組織変革を妨げるもの ④習慣  2つ目は、先にも述べましたが、習慣の問題です。組織における活動の多くは習慣的に行うものです。伝票の整理でも営業回りでも、さまざまな会議における意思決定でも組織生活をある程度過ごした人にとって、仕事の多くは基本的には習慣的な活動です。同じようなやり方や考え方で仕事は処理されていきます。全く新しい仕事でない限り、私たちは過去の仕事のやり方を踏襲しながらそれらの仕事をこなしていきます。  そのため、変革が起こっても、これまで

経営組織論と『経営の技法』#338

CHAPTER 12.4:組織変革を妨げるもの ③未知への不安  大きな組織変革が難しい理由は、そもそも変わることに対する心理的な抵抗感にもかかわります。変わることへの心理的な抵抗感は、3つのことから生まれます。  1つは、未知のものへの恐れです。組織の変革は、それまでの知識を不安へと変えてしまいます。たとえば、海外などこれまでと違う土地での生活が不安を感じさせるのは、それまでの生活で培った知識が通用しないと感じられるからです。組織においても、組織変革が行われることで、今まで

経営組織論と『経営の技法』#95

CHAPTER 4.3.2:マトリクス組織と一部事業部制組織(②一部事業部制組織)  続いて、一部事業部制組織を紹介します。一部事業部制組織は事業部制を基盤に職能別組織の良さを取り入れたものと考えることができます。図4-5が一部事業部制組織の一例です。一見すると事業部制に見えますが、いくつかの点で典型的な事業部制とは異なります。 (図4-5)一部事業部制組織  第1の異なる点は、基礎研究部門など各事業部が共有できる部門を独立させている点です。事業部制の考え方に則れば、基礎研

経営組織論と『経営の技法』#337

CHAPTER 12.4:組織変革を妨げるもの ②強固な組織文化  もう1つは、そもそも強固な組織文化や価値観を持っている組織では、これまでと異なる新しい考えが生まれにくいことです。組織文化の強さの利点は、組織メンバーの多くが同じような価値観を持つことで、モティベーションが高まること、細かな指示伝達がなくとも柔軟に組織の価値観に沿って行動をしてくれること、コミュニケーションがしやすいことなどがあります。  しかし反対に、みんなが同じような考え方をしていることで、これまで示され

経営組織論と『経営の技法』#336

CHAPTER 12.4:組織変革を妨げるもの ①成功体験  組織変革は、その規模が大きくなればなるほど、能動的に進めていくことが難しくなります。過去に成功したことがある企業や強固な組織文化を持つ企業は、特に難しくなります。その理由は、第6章でも触れたように大きく2つあります。  1つは、環境の変化によって、自分たちのこれまでの組織文化や価値観が成功につながらなくなったことに気づきにくいからです。過去に成功例がない大きな企業はありません。何らかの事業の成功があったからこそ、企

経営組織論と『経営の技法』#335

CHAPTER 12.3.4:4つの変化の操縦モデル ③まとめ  私たちは、組織とは合理的で安定的な存在であると考えがちです。  そのため、組織を変えるということは、能動的にそして大きく変えなければならないと考えがちです。もちろん、それも組織変革のあり方ですが、能動的ではなく、受動的に組織が変革していくこともありますし、能動的であっても小さな変革もありえます。変革は変革それ自体が 目的ではありません。それらを長期的な成功をもたらす組織変革につなげることが、組織変革のマネジメ

経営組織論と『経営の技法』#334

CHAPTER 12.3.4:4つの変化の操縦モデル ②それぞれの意味  能動的で小さなレベルの変革には、これまでの仕事の手順や、やり方などの刷新や改善、あるいは技術のアップデートなどがあります。生産現場でのカイゼン活動は、このようなタイプの変革になります。  受動的で小さなレベルの変革には、状況の変化に巻き込まれるような形での変化や適応があります。たとえば、国の制度によって食の安全基準が変われば、それに対応して企業組織も安全基準の見直しをしなくてはなりません。一方、受動的

経営組織論と『経営の技法』#333

CHAPTER 12.3.4:4つの変化の操縦モデル ①全体の意味  このように見てくると、組織変革のあり方も見方によって異なることがわかります。安定的な状況を打破するような組織変革では、組織変革は大きく急進的なものになります。そのためにトップとミドルが協力して大きな力で組織を変えていくことが求められます。一方で、常に変化している状況での組織変革は、小さな変化の繰り返しによってなされます。それは環境からの要請でもあり、組織として環境に対応する結果でもあります。どちらにせよ、常