経営組織論と『経営の技法』#340

CHAPTER 12.4:組織変革を妨げるもの ⑤恐怖心
 3つ目は失うことの恐怖心です。組織にある程度長くいる人であれば、地位やパワー、人脈、評判など、さまざまな無形のものを組織の中で持つことになります。それが現在の組織体制で得られたものであるとすれば、組織が変わることで失ってしまうものもあるかもしれません。
 たとえば、戦国時代や幕末など戦乱時には武力があることは、その人の大きな利点となりました。しかし、平時になってしまえば、そのような武力はほとんど評価されなくなります。このような傾向は、若年層よりも高齢層に多く見られる心理的抵抗です。それはいうまでもなく、今までのやり方でやってきた時間が長く、組織変革で失うと感じるものが多いということにほかならないからです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』287頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 ここでは会社組織の変革という観点から、いわゆる「老害」の一面が浮き彫りになりました。不器用な「おじさん」「おばさん」が、変わりたくても(変わりたいとすら思わないかもしれませんが)変われない理由です。
 このような老害の背景を知ったところで、変われないならどうしようもないだろう、と思うかもしれません。
 けれども、前回の#339で「習慣」を組織変革のツールとして活用できるかもしれないと指摘したのと同様に、「恐怖心」も組織変革のツールとして活用できるかもしれません。例えば、会社組織の変革をやり遂げることこそ、今まで築き上げてきたものを活用し、維持する方法であり、会社組織の変革ができなければ逆にそれが失われてしまう、という状況を作り上げたらどうなるでしょうか。これまで築き上げてきたものを失いたくないという恐怖心が、会社組織の変革の原動力になるでしょう。
 変われないことを非難し、切り捨てることは簡単です。
 けれども、そのことによる弊害も考えれば、これを逆手にとって活用する方法を考えてみることも重要です。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から投資対象である経営者を見た場合、いつ首になってもおかしくない不安定な立場にいる経営者は、労働法で守られ、その立場を失う「恐怖心」を持つ従業員のことを理解できないかもしれません。従業員に対して、自分自身が経営者としての発想を持って欲しい、いつでもクビになる緊張感を持って仕事に臨んで欲しい、などと呼びかける場合もありますが、逆に考えるとそのような意識を持てないから会社の従業員という立場に甘んじている従業員が沢山います。
 経営者としては、意識を変えられない従業員を非難し、簡単に首にしてしまうのではなく、会社の従業員はそのようなものだ、ということを理解しながら上手に管理し、やる気を出させ、仕事をさせていくことの方が合理的です。
 このように、他人に対して過度な期待を抱かないが、しかし上手に使いこなせる能力が、経営者に求められる資質となります。

3.おわりに
 何が組織の変革を妨げるのか、について検討してきましたが、ここで見たような一般的な理由が全てではありません。事業内容が組織の変革を妨げる場合もあるでしょうし、それがグループ会社の1つであって、グループ全体の観点から変革が妨げられる場合もあるでしょう。
 いずれにしても組織の変革を考える場合には、これを阻害する要因も視野に入れることが重要です。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。



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