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それは以前誰かが生活をしていたのであろう、今は朽ち果てた廃屋の部屋から微かに聞こえてきた。ラジオなのか、それともテープレコーダーなのか。ざらついたその音声は、虚しくも誰も居ない空き部屋にボソ、ボソと闇に侵蝕していくのであった。

ー世界は黒煙と無数の喀血と共に新たな世界線を敷いたのである。赤い釘付けの日に国家の転覆、失踪都市化の拡大、地下の鉛筆ヴァンパイア達は、首吊り花の根に溜まった禁忌の蜜を吸い、新たな鳥観図を描いている…

今すぐに釘を打て!

釘を打て!

釘を打て!!

ニンゲンという染色体が存在しない空き部屋で、一匹の埋葬虫がその信号に首を傾げて聞いている。


報告書1

「応答せよ、応答せよ!」

時代は20XX年。全世界が失踪都市と化す。
地上では原因不明の《闇=病み》が蔓延しており、ヒトビトは治療薬も無いまま吐血塗れの医療崩壊。唯一の神頼みである新興宗教団体「影の密葬舎」にも多数の《入信者=感染者》が出入りしてしまい、病み祓いを行う前に主催者が発狂、教団も壊滅状態という始末。昨今のヒトビトの間では、地上という世界がもはや都市伝説化しており、地下での生活を余儀なくされること数年…

「応答せよ、応答せよ!」

今日もまた無線機を用いての、ヒトビトの生き残りをかけた会話が暗い地下室に響き渡る。

「これで残り幾つになった」と地下B国の主。

「先週まではC国とは連絡は取れていた。しかし今日は既読がつかない、応答せよ!」とD国。何処か焦りが見える…いや、こういう場合、聞こえるが妥当な表現方法か?

「応答せよ、応答せよ!」

「五月蠅いなあ、聞こえてんだよ!」どうやらB国の主は少々気が短いようだ。このご時世、荒くなるのも仕方が無いといえば仕方が無いのだが。

「まあまあ、そう怒りなさんな。怒ったところで仕方が無いでしょう。今動くのは得策ではありません」こちらはE国の主。なんでも最近迄「影の密葬舎」に出入りしていたという。なるほど…

「応答せよ、応答せよ!」

「あの時と同じだ。F国も先々週迄は同じように呼び掛けをしていた。そして翌週、黒い月曜日と共に連絡がつかなくなった、応答せよ!」
D国の主は多方に呼び掛けをしていたらしく、このF国というのも互いに情報交換を行っていた模様であるが、どうやら《闇》に呑み込まれてしまったようで…

再び怒号が聞こえる。
「それが何だっつうの、こうなった以上慌てても仕方がねえんだよ」

「まあまあ、そう怒りなさんな。怒ったところで仕方が無いでしょう。聞こえてますよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
と、あきらかにE国の主も機嫌が悪くなっているのは歴然である。

黒い月曜日。
そう、この何とも言えない闇世界の裏には政府が噛んでいるという情報も錯誤しており、国家推奨なる人減らし政策なのではないかという憶測も飛び交っているのだ。その人減らしの元となる《闇》が蔓延するのが暦上での今日、黒い月曜日になる。故に各国焦りを見せているのである。

「人減らしか…フン、皮肉なもんだな」
「何が?」
「数年前迄は政府は働かないもの喰うべからずと発していた。今は引きこもり政策が国家推奨ときたもんだ。働いたもの喰うべからずという事だ」
「そんな暢気な事を言ってる場合か!動かなければならんだろう!こうしている間にも監視の目は光っている」
乏しい電波を介し、B国とD国の攻防戦が繰り広げられる。

何故に皮肉なのか。
確かに世の産業は止まってしまい、ヒトビトは地下生活を虐げられ、借金苦に生き場を失った連中は毎朝首を括ってきた。
だがしかし、こうやってヒトビトが星になる事によって都会に星空の光も戻ってきたのは事実である。皮肉定食があるのならば、ヒトビトの塊がメインディッシュ、星空がデザートといったところか…

「で…お前が押すのだな」
この声を聴いたD国の主はハッとした表情を浮かべ無線機をにらみつけたが無線機からは何も聞こえない。

「さあさあ皆さん、魔も無く日曜日が終わりを告げようとしている。隣国の島国の象徴であった夕刻時の家族との団欒も今では都市伝説、もはや地下の塹壕に逃げ込む模範として定期通信化されているのは周知の通りだ…さあ、D国よ、その釦を押したまえ」

D国の主の額には大量の汗の玉が浮き上がり、身体は地獄のダンスビートが如く小刻みに震え、ただ無線機から聞こえる声に怯えているかにも見えた。

「応答せよ、応答せよ!!!」

無線機は時折異界のラジオの電波を拾う。
D国の主はその電波から放たれた声を聴きながら、黒い月曜共々皆の記憶から抹消されるのであった。

彷徨のイフ

聞こえる筈の無い 街のノイズ 脆く響く
君、聞こえるかい? 遠い夜と共に消えた声

交わす花も毒に呑まれ 土と共に消えてゆく
眠る鼓動 胸を探り もしも、フレンド 
影に重ね

イフは僕に訊ねる
この世界の涯は何処だろうと
夜の隙間に 空いたココロへ 突き刺す雨

僕はイフに答える
必ず 夜は 明けるからね、と

夢の中で 首を絞めて 眠りにつく

サヨナラ、、サヨナラ、、サヨナラ世界
マタ 目ガ覚メタラ 君ニ逢エル カナ、、

(無線機から聞こえる声…)
目が覚めればそこは 再び彷徨の世界で
僕は月蝕と共に蝕まれてしまった
羅針盤と共に影法師となり
この理性の密告と、
追憶を繋ぎ合わす旅に出かけるのであった
いつしか見た鏡の中のイフよ、
さよなら、また、目が覚めたら
君に逢えるかな…

無線機からは、サヨナラ、、サヨナラの声だけがリフレインし、虚空の四畳半国家は時が経つにつれ、その歴史と共に朽ちていくのであった。


報告書2

時間は逆再生され、C国の存在がまだ見られる。

「で、どうする気なんだ」と、相変わらず喰い気味のB国が吠える。

「闇は既に先週よりこの世に蔓延している、答えを早く導かなければならないのは確かだ。考えを聞かせてくれないか」D国。

間髪を容れずE国。
「私共の国は、、この地上の全てを消し去る釦があります。この釦を押して、一旦世界をリセットするのです。その間、我々人類は地下に潜れば良い。釦を押してしまえば世界は黒い雨に一旦包まれはしますが、これは簡単な数式の一環であって、シン・世界システムの黙示録に過ぎない。過去の疫病流行の見聞に目を通してみなさい、歴史は常に変化を求めているのです」

「応答せよ、応答せよ!」

「五月蠅いなあ、聞こえてんだよ!」B国の怒号が鳴る。

「ただ一つ問題が…」E国の声がボソっと電波に乗る。
「この釦というのが地上にしか設置されていないのだ、誰が押すのか…」
顔が見えない無線機でのやり取りの筈だが、確かに各国の視線は未だ何も発さないC国へと注がれている。
黒い月曜日の闇が再び蔓延する地下世界で、また一つの国が崩壊する音を聞いたのは数年前。

「応答せよ、応答せよ!」

無線機から微かに呼びかける声。
共に地上では黒い雨が降り、闇が街を包んでいくのであった。


報告書3

いやあ、凄い時代になってしまいましたねえ。
何の事だって?いや、怖いなあ怖いなあって。
世界各国で突如発生した疫病により、20XX年、行き場を失ったヒトビト。失踪都市東京を含め、世界各国ではこの先の『 闇 』という病みに蝕まれた罹患者達が溢れかえり、各国の先導者達は頭を抱え悩ませていた。
そこで私はこんな情報を入手したんですよー。

なんでも世界終末宣言が発令されるようで…

あまり大きな声では言えないんですけどね、歴史的事件になるであろうから、今日はここで動画として残しておきますよ

あ、私ですか?私はこの疫病流行記の羅針盤、いやあ、というか

名も亡き記憶係でございまして…


報告書4

闇が蔓延してから何年経つだろう。
無線機からはザーっといったノイズしか聞こえない。

闇に犯されたE国の主が応えもしないその無線機の前で呼び掛けている。

「もう何週目だろうか、、。一向にこの闇は治まる事無く只、時間だけが刻々と過ぎてゆく、、応答せよ!応答せよ!…何も聞こえない。誰もいない。この世界はもう終わってしまったのか…応答せよ!応答せよ」

するとE国の部屋の壊れている筈のテレビがボワッと映ったかと思うと、そこには日曜日の家族の象徴であっただろう国民的アニメの映像が浮かび上がったではないか。
しかしである。各民放の放送局は全て閉鎖。もはや国営放送であるNHK《日本拍手協会》も闇に蝕まれ、今では虚構ニュース、カルト、ゴシップニュースを垂れ流す始末。そんな皆の記憶にあったであろう国民的アニメが映る筈等あり得ないのだ。幻覚、そう、幻覚を見ているのだ。と、E国の主はもはや虫の息である。

「さよなら、、さよなら、、さよなら世界、、君に逢えるのかな、、目が覚める事があるというのならば…グハッ!ゲボゲボゲボ!」

大量の喀血後、無線機の前でE国の主は亡骸と化し、また空き部屋が一つ、地下世界に生まれるのであった。

「応答せよ、応答せよ!」

無線機から誰かを呼ぶ声がする。

噂のフォークロア

「出口なし!」 
世界の監視 
誰かが電球をはずす 遊戯の終わり
「行ってしまうのね」 
最後の言葉は 世界の涯て
最後の言葉は 世界の涯て

あの空き部屋が世界の涯てだ

ドアが半分あいている 
灯りはいつもついている
誰も住んではいないのに尋ね人 
ベッドのきしむ夜のホテルの一室から消えた
ラストショーの終わった映画館から消えた
麻薬中毒患者たちのガレージの隅から消えた
K精神病院の赤い病棟から消えた
地下鉄駅の売店で煙草を買って消えた

宛名のない手紙を待つよりも心細く 
心はさびしい夜行列車のように汽笛をならす

あの空き部屋が世界の涯てだ


報告書5 

無線機から《闇≠病》とする終息宣言が告げられ、ヒトビトは地下世界から地上へと上がっていった。すなわち地下世界全てがポッカリと大きな空洞になり、この疫病流行記は次に地球空洞説を唱える事になるのである、が、ヒトビトはまだこの失踪劇には気付いておらず、新しい事件が起きる事を知らない。

もし…

あなたにしか見えない

畏怖-イフ-

が、あるとしたら
それはあなた自身の事件なのかもしれない…

そう、幼き頃、誰しもが体験した
イマジナリーフレンド
への垂んとす表れなのである。

さて、名も無き記憶係は新たな旅に出ますか。

「応答せよ、応答せよ、応答せよ、、応答せよ…」

2020年
シン・疫病流行記/ストロベリーソングオーケストラ
「彷徨のイフ」
作詩・作曲/宮悪 戦車
「噂のフォークロア」
詩/寺山 修司 作曲/宮悪 戦車

お憑かれ様デス!やってて良かったnote! アナタのお気持ち(サポート)宜しくお願いします! いただいたお気持ちは今後の執筆活動・創作活動にドバっと注いで逝きます!!褒めたら伸びる子なんデス(当社比)