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460○ わかつ

「わかつ」

本当は分かちたくはなかった。自分で言うのも何だがとても素直がゆえの分裂であった。幼さの中に満ちた正義と責任が彼を強引に大人の方向へ連れていき、段階を踏んだ景色をちゃんと見られずに断片すら取りこぼして投げ出された。そこまでされたのちに後ろを振り返ると、誰も彼もが彼のことを知らないような見え透いた演技をしているものさえいる。そして彼は分かつしかなかった。複雑な要素を含んだ芯を覆う笑顔の太陽とだだっ広い静寂を孕んだ狙撃手のような目で夜を殺す月。二役を何年も何年も演じ続けて、やがてそれらは彼になっていった。決して交わらない、しかし離れていく距離の果てで互いを見つめ合いながら、今も遠くなる存在を感じながら。

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なかじ

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