517○ 静寂にゆれる
「静寂にゆれる」
殆ど人も出歩かない深い夜の時間でも
数々の物語を背負った光はゆれる
迷える羊のように
客を獲られないタクシーが
駅前の残像を噛みしめながら周回して
静寂をそっと駆けている
ばらばらの感傷音が向こうから呼応する
若者が群れをつくり
光となって疾走する姿に
心の中の憤りが帳を裂いていく
思い通りにいかなかったこと
届いてほしい言葉が
諦めた大人たちに響かないこと
黒色で占められた静寂に
赤のランプが小さく抵抗している光景に
私は自分の過去を重ねた
数百メートル先の向こうは
今や地平線と変わりないが
それでも紡ぐ物語が確かにここにある
私も同じだ
光となって静寂にゆれる
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NAKAJI
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