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「沈黙」遠藤周作「人がこんなに哀しいのに主よ海があまりに碧いのです」(新潮文庫)

拝啓  遠藤周作様

あなたの事が余りに好きすぎて、そしてその気持ちを表すにはあなたに対して手紙を書くという形が1番良い気がしますので、こういう形をとらせて頂きます。

あなたがいつも目指したのは、心弱く哀しい存在である人達をあなたの文学で慰めるというものでした。

敬虔なカソリック教徒であるあなたはそれをイエスキリストからの愛という形で表現しました。

例えばあなたの代表作である「沈黙」。

長崎の隠れキリシタン達の命が幕府によって奪われる中、もし神というものが存在していないのであれば、この人達の受けているあの苦しみは無意味ではないのか、なぜ神は此の期に及んで「沈黙」をしているのかというキリスト教徒にとって「永遠のテーマ」ともいうべき、そして恐ろしいものにあなたは正直に真っ向から立ち向かいました。

神の存在を常に100%の気持ちで一生涯に渡り、信じきれる人、そういう信仰を持てる人は幸せだと思います。

でも人生というのは謎に満ちていて、思いもかけないような事が誰の身にも降りかかるような気がするんです。

そんな時、「もし神がいるならなぜこの私の苦しみに対して沈黙しているんだ。」と一度でも思わないクリスチャンがいるでしょうか?

あなたが「沈黙」で書いた、ある種の神への怒りにも似た気持ちは、私にはよく分かるんです。

でも「神は常に側にいたんだ、沈黙をしていた訳ではない」というあなたの最後の逆転劇は、実に見事でした。

「踏めばいい、踏めばいい」と踏み絵のキリスト像は最後にささやきます。

弱きものに寄り添ってこその神だからです。

文学というものも、本来、弱きものに寄り添うものです。

あなたがいなくなってから、そういう文学を書く作家がこの日本にいないように思えてなりません。​



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