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《平成享年六月四十九日》(2019)

かれらを見送って四十九日が経った
私は棺桶に入り損なったので髪の毛をあっちに置いてきた

孤独にかしづいて雨上がりの青を洗うとき私は必ず一人になる
スクランブル交差点を歩く歩幅もきっともう忘れてしまったからせめて一人分の傘を広げていた
けれどこうやって手を放したから
ことばを集めながら濡れそぼって愛を畳んでいる

幼稚園の先生が書く私の名前がこの世でいっとうきれいな文字だった
あの頃からずっとここまで生きてきたくせに、いまだ翻訳できないことばたちをもったいないと思う

たった一人の借りもののからだに
ちょうどいい死を削り出すのにあとどのくらいかかる?

底抜けに明るい日差しに意味を見出さない人生でありたかった
17さいの夕刻を庭に埋めてずっと二人きりでアパートの階段に座って誰だって分かったようなことばを紡いでいたい

不遜な愛の文言さえ口にできないまま
私たちはいまさら遺書を書く権利もない
自分の感情の面倒を見れない私は
この気持ちに君の名前をつけて呼んでみたかった

死んではじめて辻褄のあう命を黙認しているなら
どうかそのまま私に気づかず喪に服していてほしい
私は私が一番私のことばを知っていると思ったまま
きっと底抜けに明るい未来で
かたく抱き合った孤独と心中するだろうから

《平成享年六月四十九日》(2019)
アクリル製仏壇・御位牌・骨壷・経典(過去帳)


(写真撮影協力:きのねのまこと)

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