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詩歌

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2020年1月の記事一覧

心象実験

心象実験

中洲に鳥は群れ
水面のひかりが茫洋と遠ざかる
蝶から蛹へ
向こうの橋をトラックが渡ってゆく
終えることができずに
知らない場所から
知らない場所へと
飛び立つ発見を
無数のはじまりを
犬歯のような白さで
つづける
そらと水と足元の
占有権を主張しない
余分なものの
とどまる成立の
一切交わらない
真珠貝が真珠を異物として抱えているように
発酵した記憶が
鞄の底の見えない螺旋が
悩ま

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受胎

受胎

いともすみやかに接吻は忘れられた

放物線を描いた鳥の
糸柳の髪でしかなく
空の水脈を攪拌する杖がある
石灰質の裸身を人外に晒しながら
生まれなかった姉の
名前を聞いたことがある
幡の終わらない参道に
葬列は乱れ
風に緩やかに呼ばれている
招かれていたのかもしれない
逃避なのかもしれない
むかし
飛行機が墜ちた日のこと
海岸に耳が打ち上げられ日のこと
たくさんの林檎の実が落ちた日のこと

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詩的実験(8)

詩的実験(8)

鉱物質の味のする
赤土の付着した
春生まれのきのこを睡らせる
あるとき
夜から感染するという病気に
罹ったが
放牧されたことばを
葡萄酒で希釈したところ
唐黍の聴力のように
遠くまで届いたので
ペン先から滴る血のように
一度だけあなたに告げた

生まれなかった姉の
歌えないフレーズを
細いからだの毒を
眼のなかの蛹を
鏡をとおして
わたしは置き去りにされのだった

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六月の水道

六月の水道

尾道の日の
裸身の部分を垣間見たとき
河のながれを冷たさと知る
ひかりを裏返しながら
獣の匂い
「いけない いけない
「Vivants Vivants
柵内の庭に
血が渦をまく
打ち寄せる泡が、波が、小石が
花を咲かせる
音が燃えだす
足早に
通りすがりの夜
現像される
追い越される
固定される
いずれ砂漠の手のかたちに
まぶしく残る
丁寧に拭えば
痛みだけが
透きとおり
拍動

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詩的実験(7)

詩的実験(7)

遊歩者(フラヌール)として眼球の後をつけ
身体の少ないあなたを愛した
手袋とそのブロンズの手袋に鼻を押しあて
失ってしまう
カマキリの曲線とアールヌーボーと
宙吊りされる夕暮れがある

おおがさき
とこからかこと 
伏した父から聞きだした

素焼きの器に羽毛を詰めて
霧のなかから鳥が飛び立つ
足元は真っ暗く
紙を燃やしたあとかもしれなかった
あとは盲滅法にひろがる
数学的な

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詩的実験(6)

詩的実験(6)

消えては立ち戻る直線の
思想を石の中に混ぜる
血のようにひろがって
ゆくなかで読んだ
蛇の目をもつ王国の隅っこへと
捨てられた反古に書かれていた
そもそも最初から決まっていたことばしか
口にしなかった
空の根である反射光は
ロータリーを巡り
夜から飛び立つ鳥の
はじめてのくちづけを
出口の見えない通路に
鏡のなかをひかり続ける
ずっしりと重たいのだ
疲労した葉葉の旅路のために

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詩的実験(5)

詩的実験(5)

わたしの空の、鳥の話を始めよう
あたためているのは遅れてきた耳
鶏を懐に抱え頼りなく
天体の血がうちに流れる

空間が全て空と海だった
脱皮したのち、太腿まで水に浸り
草のにおいを洗う
欲望を洗う
つぎの脱皮まで
繰り返し
樹皮に傷つけて きく 
と刻んだ
めじるしだから
皮下出血の部分が
蛇の眼をして
物理学的配置のまま
骨が蕩けるほどに

埋めるか、食すか
区域外に逃

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パピエコレ

パピエコレ

蛇と舌をからめたあとの生臭い息を吐き出す
関節が噛み合わず嘘をつきとおしながら
向こうの岸へと向かう
皮膚呼吸に切りかえたあと糸のようにくだる 
と、
背中をバスが通過した
わたしはアスファルトに埋まっている
     *
貼り絵(パピエコレ)として
海に貼られた冷蔵庫のように軽く
移植臓器はひかりを発するまえに出発する
ときに雲間から、肉や葉や血液を送りつづけ
明確に視覚の境界

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差し向け(試行)

差し向け(試行)

草の焼けるにおい
はちみつの土のにおい
蝋燭の肌のにおい
死人の樹のにおい

招かれて
エゴノキの実のこぼれた庭に
ウサギを埋めたこと
鸚哥を埋めたこと
血はあたたかく
ニワトリの首を絞めました
きっと、わたしも埋められる
   *
ミルクの朝は
森のにおいを含み
炎に委ねて足を垂れる
ぼくはもう逃げない
手のひらを舐めれば
血の味がする

都市を守る
べきものたち

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化学〜風の行為〜

化学〜風の行為〜

取り囲まれるひとりを
不規則な強弱に触れられる
手をとって
顔のない宝石
輝いていたはじめの
裸のままの
海から陸へ、非連続的に
葉擦れの音に代用される
足元のあたり
頭上の手の届かない高さに
海を諭し
水面を慰め
纏わりつく範囲の
核心にかかわらず
拒絶する動線の
鳥は美しく想像され
嚢のなかの宝石が
音素でつながる
#詩

詩的実験(4)

詩的実験(4)

地下鉄のイマージュは
ひとのイマージュと部分的に重ねられ
威嚇的なインゲンを許しながら宝物殿へと納められる
時代を遡り、両腕で抱え込む範囲内へと金貨銀貨をばら撒き
分布状況は足で稼いだ地図へと転移され
核廃棄、減衰体制、挙用、医院と連鎖してゆく

構えたのだが、撃つべき方角が定まらない
安全な方角など、どこにもないのだ
急な傾斜地の農地を降り、岩をよじ登り
小屋から道路へ

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オートマチック

オートマチック

偉大なる裏切り者の、そして協力者の、交差する線上に膨らむ卵状の耳朶の、すこし塩分を含んだ井戸水の、朽ち果てた鶏舎の、解放される暖簾の玉が貴方の目的地へと、嫌われていると書かれた手紙の、全裸の雪原に鶴は飛来し、天気が回復するとか崩れるとかの、読み始めたのではなく読み終えるのではない詩の、髪の毛を噛んだ前歯の、水銀は転がる奴隷のように、ふたつ並ぶ神社が、よく砥がれた月の狂気を、退屈

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