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歴史が語りかけてくるもの~「まいまいつぶろ」を読んで~

☆まいまいつぶろ 村木嵐著 幻冬舎  1800円+税

 初代家康、二代秀忠、三代家光、五代綱吉、八代吉宗、十五代慶喜。
教科書で習う江戸時代の将軍たちの活躍は六人ぐらいで、それ以外の将軍に関しては、ほとんど知らなかったです。だから、この本を読んで九代将軍家重がこんな人だったとは驚きであり、忠光との出会い、その生き方には心動かされました。
 第12回「日本歴史時代作家協会賞作品賞」受賞
 第13回「本屋が選ぶ時代小説大賞」受賞
 第170回「直木賞」候補作品

もう一度生まれても私はこの身体でよい。そなたに出会えるならば。
 口がまわらず、誰にも言葉が届かない。歩いた後には尿を引きずった跡が残るため、まいまいつぶろと呼ばれ蔑まれた君主がいた。常に側に控えるのは、ただ一人彼の言葉を解する何の後ろ盾もない小姓・兵庫。
 麻痺を抱え廃嫡を噂されていた若君は、いかにして将軍になったのか。

帯文より

 九代将軍家重は生まれながらに障碍があり、(後の研究では脳性麻痺)
言葉を発しても何を言ってるか伝わらず、手には麻痺があり、頻尿で裾が濡れていたという。びっくりして、少し調べてみると、家臣まかせで暗君だったとする説もあります。が、この小説では、どこまでが史実でフィクションかはわからないけれど、本当は聡明なのだけれど、障害のために最初は理解してもらえず蔑まれた、と書かれていました。

 主として、家重(幼名・長福丸)に仕えた大岡忠光(小姓・兵庫)との主従関係というか友情のような、人間同士の信頼関係について書かれています。忠光と出会ったことによって、家重は言葉を発する場をもち、変わっていきます。そして、忠光の死への旅立ちを感じたとき、自らも将軍職を子どもに譲ります。

たとえ存分に話すことができても、思いが通じぬのが人の常だというではないか。ならば己は、もはや口がきけぬという苦さえもなくなった。

P315

 妻となる比宮に薔薇の花を贈るシーンや、比宮死後、幸との間に家治を授かるシーンなどは、この方を次期将軍へという忠光やまわりの温かい願いが伝わってきました。
「私は読みながら幾度か嗚咽を洩らさずにはいられなかった。(中略)本書は過酷な運命に対して、どれだけ人間の真実が抗し得るかを描いた奇跡の一巻である(縄田一男氏)」と帯にありますが、同感で、わたしも途中、泣きながら読みました。
 この本の感想は、かなこさんも書かれており、参考になりました。

この夏休み、九代将軍家重がこんな人だったと知らなかったのでびっくりしたことから始まり、読んでいくうちに、大岡忠光や比宮、幸との縁に心が洗われていきました。読後、清々しく、人間と人間の信頼の尊さを感じました。

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#徳川家重 #大岡忠光 #直木賞候補

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