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わたしの本棚120夜~「ザリガニの鳴くところ」

 2021年本屋大賞翻訳小説部門1位で、2019年アメリカで最も売れた本で、原書の累計700万部を突破したそうです(2021年現在)写真は、版元の早川書房さんの画像を借りました。

 日本語訳が読みやすい文章なので、長編ですが、すらすら読めます。物語は、ノースカロライナ州の湿地で町の有力者の男の死体が発見されます。他殺、事故かわからないまま、犯人を捜すミステリーの様子を展開しながら、主人公カイアの6歳からの過酷な運命、成長物語としての話も進みます。村のみんなから「沼地の少女」として蔑まれていたカイアが殺したの  か・・・。後半、法廷シーン、陪審制度での証言シーンも出てきて、ラストの収束への展開は、安堵というより、生きていくことの過酷さと同時にカイアの生命力の凄さを感じました。

☆ザリガニの鳴くところ ディ―リア・オーエンズ、友廣純訳 早川書房 1900円+税

 カイアが6歳のときに母親が家を出て、続いて年の離れた姉兄も家をでます。一番年の近い兄のジョデイまでも家をでます。酒飲みで暴力をふるう父親と小屋で生活するカイアは、学校にも行かず、村からもでられず、孤独のなか、生きていきます。やがて、父親も家を出ていき、ひとりになったカイアは、船着き場の燃料店のジャンピンに貝を売ることで、生活をします。ジャンピンと妻のメイベルだけが、村でカイアの良き理解者でありました。

 ジョデイの友人テイトに言葉を習い、本を与えられたカイアは、自然を先生として、詩をつくり、沼地の研究をして、テイトのススメで本まで出版するようになります。

「ザリガニの鳴くところ」カイアの母さんも言ってました。茂みの奥深く、生き物たちが自然のままの姿で生きている場所のことです。そこに行きたいと願うカイア。圧倒的な孤独ななかで、カイアが生きていく姿には、応援したくなります。

沼地の自然描写とともに、カイアが口すざむアマンダ・ハミルトンの詩が素敵でした。町の有力者の息子であるチエイス・アンドルーズが身勝手にもカイアに言い寄り、謎の死をとげます。疑いはカイアに向けられ・・・。

ラストはカイアの生命力に圧倒されました。そして、テイトの実直な優しさに。著者のディリーア・オーエンズ氏は動物学者であるそうで、カイアが森の動物や植物に向ける温かい視線にも癒されました。拘置所でも、カイアはカモメの餌やりを心配するのですから。秋の森の葉は、落ちるのでは飛ぼうとしているという記述にも。読後感は、ハッピーというより、カイアという女性の生き方、芯の強さにうなってしまった本でした。

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