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わたしの本棚102夜~「52ヘルツのクジラたち」

 2021年本屋大賞受賞作です。今年は、ノミネート作品のなか、宇佐見りん氏『推し、燃ゆ』(河出書房)、加藤シゲアキ氏『オルタネート』(新潮社)、伊坂幸太郎氏『逆ソクラテス』(集英社)を読みました。

 3作品とも面白かったのですが(特に『逆ソクラテス』は大好きな作品でした)、それらに比べるても、受賞作『52ヘルツのクジラたち』は、一番、感情を揺さぶる内容であり、泣かされました。ラストへの収束は、少しご都合主義な感じがしないでもないですが、希望がありほっとしました。

☆52ヘルツのクジラたち 町田そのこ著 中央公論新社 1600円+税

 52ヘルツの鯨とは、他の鯨が聞き取れない高い周波数でなく、世界で一頭だけの鯨だそうです。たくさんの仲間がいるはずなのに、仲間に何も届かない、孤独な鯨のことだそうです。

 再婚した母親から虐待され、義父の介護生活を強いられ、自分の人生を搾取されてきた主人公の貴瑚(きこ、キナコ)。母に虐待され、愛(いとし)という名前がありながら「ムシ」と呼ばれ話せない少年。両親から虐待されてきたふたりが出会い、孤独ゆえに愛を欲しながら、新たな出発をはたす物語でした。

 物語の舞台が、大分県の海岸沿いの町と北九州小倉というのは、個人的に馴染みのある地名で、郷土料理などの描写はおいしそうでした。しかし、度が過ぎる虐待の描写は、胸が痛くなりました。その反面、二人を助けてくれる人たちの優しさに幾度も涙しました。

 貴瑚には、友人の美晴、その彼匠、アンさん、村中くんなどとの出会いが生きることを肯定してくれます。愛にも、父方の祖母真紀子さん、叔母さんの千穂さん、藤江さん。届かなかった声が、辛うじて届く人たちとの出会いにより・・・。4作品のなかで、一番泣きました。ライトノベル感覚の文章なので、さくさくと読めます。他の3作品に比べ、いささか二時間ドラマ的(恋愛、ジェンダーの悩み、自殺など)な感じもしましたが、届かなかった児童虐待の声が、この受賞を機に少しでも届く世の中になりますように。

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