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幾春かけて老いゆかん~歌人馬場あき子の日々を観て


 95歳の歌人馬場あき子さんの人間的魅力に脱帽でした。監督の田代氏の長編2本目で、ドキュメンタリー作品で、彼自身も馬場さんに魅かれ、日常を撮らせて欲しいと願ったことから映画化になったそうです。短歌のこと、知らないわたしでも楽しめました。ナレーション國村隼。

幾く春かけて老いゆかん~馬場あき子の日々  田代裕監督

 馬場あき子さんの93歳から94歳の記録です。コロナ禍であり、かりんの編集会議もリモートで行われていました。
 僭越ながら、声がいいです。威厳のある凛とした声で、とても95歳には聞こえない。もちろん、背筋が伸びて若々しい容姿にもびっくりしました。
 インタビューにありましたが、どんな歌がよいか、の問いには、「今を詠む歌」と即答。口語でも文語でもいいから「今」を。そして、「今」を感じるために、95歳になった現在もテレビでお笑いを観るという姿勢。お笑いは時代の先端を映すから、という意見には共感でした。

 短歌ではご主人亡きあと、かりんの主宰で、1000人の会員がいるとのこと。また、朝日歌壇では、一度に2200首を読み、まず25首に絞り、それから10首にするという。その様子をカメラが追ってましたが、早いし、躊躇せずに判断していきます。
 結社内の若い歌人に、句集を薦め、短歌は鮮度が大切なことをいい、「お金ないなら、だす(建て替える)」とまで。微笑ましい子弟愛でした。

 最近、父を亡くしてから、老後のことばかり考えて、娘がいないから老人ホームに早めに入ろうかなどど、うじうじとした思考ばかりしていた私に、喝を入れてもらったような作品でした。こんな素敵な95歳がいるんだ、死ぬことの心配より生きること考えてというメッセージ。

 長年、選者を務めた小野詩歌文学賞(他の選者永田和宏氏、宇多喜代子氏、辻原登氏)では歌仙をまくとき、ご自身の意見をはっきり言います。「見せ消ち」や短歌では下七七大切という考え方の奥深さも面白かったです。

 昆虫が好きで、田代監督から頂いた昆虫図鑑を愛でる姿は、少女のようでもあり、ダイニングテーブルに梅干しを置いているところは祖母のようでもあり。部屋の撮影では、ざっくばらんで飾らない性格がみえ、若いころの写真は美しく、田代監督が指摘されたように、さぞオモテになっただろうと推測されました。
 願わくば、映画のなかの短歌、もう一度知りたかったので、パンフレット作製して欲しかったです。覚えきれず、残念でした。

 さくら花幾春かけて老いゆかん身に水流の音ひびくなり
 お笑い芸人ばかり出ているテレビにつきあふ今宵ありて十五夜
 都市はもう混沌としてみそラーメンのようなかなしみ

 こんな95歳いるんだ、という驚きとともに、誠実な仕事ぶり、人との温かな交流、生きることへ元気をもらえるような映画でした。*画像は京都アプリングの公式ページから

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