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わたしの本棚146夜~「天上の花」

 今年の冬、片嶋一貴監督で映画化されることを知って、原作を読んでみました。映画は、三好達治を主人公とし、戦争の時代に翻弄され、詩と愛に葛藤し、懸命に生きた人々を描く文芸ドラマだそうです。小説の方は、作者萩原葉子さんが、三好達治と父萩原朔太郎との関係、叔母の慶子さんと三好達治のロマンス、慶子さんと別れたあとの16年、達治が独身に戻り、文学を志した葉子さんとの接点などを描いています。第55回芥川賞候補作、第13回新潮社文学賞受賞、第6回田村俊子賞受賞。

☆「天上の花ー三好達治抄ー」 萩原葉子著 新潮社 1200円

値段は昭和53年16刷のものです。

三好達治というと、わたしにとっては、教科書に載っていた「雪」という詩の作者として刻まれていました。

「雪」

太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ

次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ

たった二行の詩なのですが、白い雪で覆われた屋根の静謐な光景が浮かび、とても好きな詩でした。そんな三好達治の半生です。達治は、尊敬する萩原朔太郎氏の弟子となり、萩原家に出入りするようになります。そこで、作者の葉子さんとも出会い、遊んだりするのですが、萩原家、特に祖母(朔太郎の母)などは、三好達治が貧乏書生だったことから馬鹿にします。

 佐藤春夫の姪と結婚し、二児をもうけますが、萩原朔太郎の末妹慶子さんへの思いが募り、慶子さんのご主人が亡くなったことを機会に、自分も離婚し、福井県で疎開し夫婦生活を営むようになります。そこからの小説は、慶子さんの手記の形で、創作とありますが、夫婦の破局までを丁寧に描いています。その後、戦後、葉子さんは文学を志し、東京で三好達治と再会し・・・。読みやすい文章で、一気に読みました。達治は「雪」という詩のように綺麗な言葉を発している一方で、感情がコントロールできなくなると暴力をふるい、慶子さんを殴ったという描写は、凄惨で胸いたみました。萩原朔太郎氏の偉大さ、慶子さんの美貌(谷崎潤一郎氏も求愛したそうです)、富めるものと貧困の格差、など実在の著名人の名前もたくさん出てきました。作者の三好達治に向ける視線は温かく、64歳でひとり生涯を閉じるまでの変遷は、小説として面白くて心に残りました。

「天上の花」は、今秋に開催される萩原朔太郎の大回顧展「萩原朔太郎大全2022」の記念映画として制作されるそうで、この原作から、12月公開の映画では、三好達治がどのように描かれているのか、楽しみです。

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