好きなものの話がしたい
好きなものの話がしたい。好きなものの話だけをしたい。或いは少年少女ならドクターペッパーでも片手に、或いは大人ならアルコールでも。何だっていい。好きな物の話がしたい。
紫色が好きです。お寿司が好きです。背脂のぶかぶか浮いたラーメンが好きです。高架橋が好きです。音楽が好きです。アイドルが好きです。ろくな青春も無かったくせに、青春を歌うバンドが好きです。宇宙が好きです。眠ることが好きです。派手な髪色が好きです。ピアスやタトゥーが好きです。夜7時の、安い発泡酒が好きです。時々薬を多く飲むのが好きです。変わった洋服が好きです。あなたの嫌いなものが好きかもしれない。セックスなんかも、もしかしたら好きかもしれない。でも好きは何だってよくね?
嫌いなものの話をするのは疲れる。あれが嫌い、これが嫌い、あの人が嫌いとか。好きより簡単に言葉にできるのが不思議だ。簡単な代わりに、静かに心を蝕んでゆく。音もなく、確かに。本当は聞きたくなんてないのに。嫌いとか苦しい言葉やものたちから目を背けて、蓋をして、気付かないふりをして、阿呆みたいな顔を晒して、へらへら生きていたいのに。
それを許さないのは世間で、つまり、自分なのだと思う。どうしたって嫌いを抱えなければ生きてはいけない。大人になるにつれて嫌いなものが増えた。幼い頃に大好きだったものが褪せてゆくのが悲しい。そういうものなのだと受け入れるのが悔しい。好きだったものを、好きだけを愛していたい。それだけをポケットに詰めて、鮮やかなまま取っておきたい。好きなものの話がしたい。あなたは何が好きですか。
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